発達心理学研究第14巻(2003年)   


14巻1号

児童が学級のメンバーの差異を捉える視点:個人的構成概念の分析から(川端美穂:立命館大学大学院文学研究科)

児童が学級のメンバーの差異を捉えるときに重要な視点とはどのようなものなのか,そのような視点には学年や性別によって異なる特徴が見られるのかについて検討した。学級のメンバーの差異を捉える視点の検討にあたっては,Grid technique(Kelly,1955)を用いて,学級生活において重要な人物から構成された3人組を比較させ,2人に共通する類似性とそれらとは異なる3番目の人物の対比性を,個人的構成概念として抽出させた。2年生(37名)・4年生(38名)・6年生(37名)児童が抽出した個人的構成概念を分析した結果,総抽出数では学年間に差が見られず,高学年ほど多様な視点を用いる傾向は確認できなかった。ただし,その内容では,(1)2年生でも他学年と同様に特性を重視することや,他学年に比べて特定の個人に向けられる対人態度への関心が高いこと,(2)4年生では性別や居住地域などの事実的情報に関する視点が顕著であること,(3)6年生では評判(人気)や友人関係の持ち方などの公共的視点が優勢になることなど,学年によって異なる特徴が見出された。本研究で得られた結果は,従来の対人認知構造の発達研究から導かれる,具体的・表面的・周辺的・自己中心的把握から抽象的・内面的・中心的・公共的把握へという変化のパタンには必ずしも一致しないものであった。
【キー・ワード】児童,学級のメンバー,個人的構成概念,グリッド・テクニック

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幼児のかな文字視写を成立させる要因についての検討(小森伸子:立命館大学文学研究科/現在:大阪国際児童文学館)

本研究の目的は,幼児のかな文字視写の成立に関して,文字の特徴別に文字の「読み」と「分節化−構成」,「ストローク」という3つの要因の関連から検討を行うことであった。実験Iは,平均年齢5歳2カ月の幼児47名を対象に文字読み,線視写,文字視写,分節化−構成課題の実験を行った。視写と構成の結果は,5つの字形の誤りカテゴリと分節化の観点から評定が行われた。読みの成否と視写の誤りの関連から,「曲線折れ線」や「曲線交差」の文字は,「読み」要因が,構成と視写の関連では,「接点」や「交差」,「交差分離」の文字で「分節化−構成」要因がそれぞれ視写の成立にはより重要だと考えられた。「閉円」の文字は,「読み」も「分節化−構成」の要因も関連がなかった。実験Uは,「ストローク」の要因に関して検討された。実験Iに参加した被験児に,実験Iで誤りのあった文字を書かせる前に,実験者が視写の前に成人型のストロークを示し字形の改善を調べた。実験lの結果から読みと構成の成績で被験児の群分けを行い,群別に字形の改善率を比較すると,字形の改善が他の群と比較して多く見られたのは,文字の読みと構成ができる被験児の群であった。実験Iの結果から,字形の特徴により「読み」や「分節化−構成」の要因の重要性が異なること,実験Uの結果からストロークが不十分な場合にも字形の誤りが出ると考えられ,「ストローク」も視写の成立要因であると考えられた。
【キー・ワード】 幼児,視写,文字読み,文節化−構成,ストローク

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子どもの自称詞の使い分け:「オレ」という自称詞に着目して(西川由紀子:華頂短期大学)

子どもが使用する自称詞について,場面に応じた使い分けに着目して,京都市内の保育園においてアンケート調査(216家庭)と観察調査(5歳児クラス男児9名)を行った。その結果,第lに,2歳でほとんどの子どもが対称詞と同じ自称詞(愛称・名前)を用いることが示された。第2に,男児はその後「愛称・名前」と「オレ」「ぼく」を並行して使い,幼児期は両親に「愛称・名前」,友達に「オレ」を用いる傾向,学童期中頃に両親に「ぼく」,友達に「オレ」を用いる傾向が示された。また「オレ」の使用は友達関係をとおして伝播することが示された。女児は学童期になって「わたし」の使用が増加しはじめるものの「愛称・名前」の使用が学童期にも続き,両親と友達の間での使い分けはほとんど見られなかった。第3に,年下のきょうだいには年齢にかかわらず親族名称が使用される傾向が示された。第4に,男児が保育者に対して「オレ」を使用するのは,主張したり自慢する場面のみであり,日常的には「ぼく」を使用していること,友達にはどの場面でも「オレ」も「ぼく」も使うことが示された。第5に,家庭で「オレ」を使っている自閉的傾向の男児が保育園で「オレ」を使用しなかったことから,自閉症児にとって「オレ」を用いての自己主張が難しいことが示唆された。こうした自称詞の使い分け方から,男児は,相手や状況や内容に応じて,ふさわしい自称詞を選択していることが示された。
【キー・ワード】 自称詞,性差,使い分け,「オレ」,子ども

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青年が認識する親への愛情や尊敬と,同一視および充実感との関連(若原まどか:立教大学大学院文学研究科)

本研究では,現代青年の親への態度(愛情,力を感じる)と同一視(意識的なモデル化,取り入れへの気づき)との関連について,西平(1952,1990)の枠組みを用いて検討し,さらに,親への態度と,アイデンティティ統合の感覚の生活気分としてのあらわれである充実感との関連について検討した。研究T:親への態度および同一視と充実感を測定し分析したところ,現代青年(男子=259名,女子=439名)は親を愛し親に力を感じている傾向が示され,愛情と力を感じている青年ほど親を同一視し,その傾向は「モデル」下位尺度で顕著だった。また,青年が親に愛情と力を感じているか否かということと充実感との関連は示されなかった。研究U:研究Iの被調査者のうち16名(男子=7名,女子=9名)に,半構造化された面接調査を実施した。研究Tで示された知見が質的に分析され妥当性が示された。本研究の結果から,西平(1952,1990)の枠組みが現代青年の親への態度や同一視についても当てはまることが示された。さらに,現代青年は,親,特に母親を愛し力を感じる傾向があり,その態度は青年が親を同一視する程度と関連しているが,親への態度と青年の充実感は必ずしも関連しないことが示された。
【キー・ワード】 青年期,親子関係,同一視,アイデンティティ,人格発達

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関与観察者の多様な存在のありよう:保育の場での子どもの「育ち」を捉える可能性を探り当てる試み(石野秀明:兵庫教育大学幼年教育講座)

近年,保育の場は,子どもが育つ場として,ますます重要な機能を担いつつある。発達心理学の中でも,そこで生きる「子どもの育ち」の実情について,知見を重ねてゆくことが必要であろうし,そのためには,方法論の整備が待たれるところである。本論では,具体的な事例に即して,保育の場での関与観察者の存在のありようを明らかにし,その場での子どもの育ちを捉える可能性を探り当てることを目的とした。事例分析の結果から,以下の三つの方法論的観点を新たに提示した。@保育の場における関与観察者の存在のありようとは,その都度の場の流れに応じた「子ども−保育者−観察者」関係の中で,生きられるものである。A関与観察者は,その特性として,保育の場の内部と外部の連続帯の上で,多様な存在のありようを身にまとう。B関与観察者は,その存在のありようの多様性を利することで初めて,複雑で奥行きのある個々具体の出来事の意味を読み解くことができるのであり,結果,手応えのあるかたちで,その場での子どもの育ちの実情を捉える可能性が開かれる。以上の議論を踏まえ,関与的観察一般の課題として,@関与観察者の自己記述という試みの方法論的展望,A関与的観察の自己言及性,B関与的観察の倫理的問題の三点を挙げ,考察を行った。
【キー・ワード】 保育の場,関与的観察,「子ども−保育者−観察者」関係,方法論

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胎動に対する語りにみられる妊娠期の主観的な母子関係:胎動日記における胎児への意味づけ(岡本依子:湘北短期大学幼児教育科・菅野幸恵:自百合女子大学文学部/現青山学院女子短期大学・根ヶ山光一:早稲田大学人間科学部)

妊娠期に妊婦が感じる胎動は,まだ見たり抱いたりできない我が子を直接感じることのできる唯一のものである。本研究では,胎動についての妊婦の語りを胎児への意味づけととらえ,妊婦からみた主観的な母子関係の変化を検討することを目的とした。初産妊婦33名より胎動についての882の日記を得た。この日記における胎児のからだの部位や内的状態などの語りを胎児への意味づけととらえ検討した。その結果,本データから妊娠期の2つのターニング・ポイントが見いだされた。第一のターニング・ポイントは,妊娠29〜30週であった。この時期,胎児の"足"についての語りが急増し,それまで胎児を"人間以外"の"モグラ"などとしていた記述が激減する。妊婦は,お腹の存在を"人間の赤ちゃん"として意味づけを構成するようになることが示唆される。第二のターニング・ポイントは,妊娠33〜34週で,胎児の"足"についての語りが一時減少する時期である。ここでは,胎児の"応答"との語りが,母親へと意味づけられていたものが第三者への応答との意味づけへ変化した。最後に,胎動が妊婦の意図とは関わりなく生じることそのものに立ち返り,胎児とのやりとりという視点で考察を試みた。
【キー・ワード】 胎動,妊娠期の母子関係,胎動日記,意味づけ

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虐待を受けた子どもに対する環境療法:児童自立支援施設における非行傾向のある小学生に対する治療教育(大迫秀樹:福岡県立筑後いずみ園)

この論文では,虐待を受けた子どもに対する環境療法について研究した。その知見は,非行傾向のある小学生に対する児童自立支援施設における治療教育から得られたものである。環境療法による処遇では,施設の生活場面全体を治療環境としてとらえて活用した。そして,子どもたちが日々の生活の中で安心感を抱くことができるように,治療者は小集団の中で強力なサポートを提供していくのだが,その際には,虐待を受けた子どもたちにとっては,日課や遊びといったものが大きな意義を持つことにも十分留意した。さらに,問題行動に対しては,一定限度まで表出させる一方,そのつど対応し,修正を行っていくようにしていった。それらとともに,子どもたちが,気持ちや感情を言葉で表現していくことに対する援助を行ったり,あるいは自尊心を向上させることができるように関わったりすることにも留意して対応を行った。他方で,それらと並行して,家庭に対する援助を行ったり,あるいは園外活動,試験復学など施設外での社会内処遇も十分に活用したりするようにしていった。虐待を受けた子どもに対する治療的なアプローチとして,環境療法が有効であることが示され,その対応の重要性といくつかの留意点について考察された。
【キー・ワード】 子ども虐待,非行,小学生,環境療法,子どもの心理療法

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14巻2号

棒の長さ知覚課題におけるダイナミックタッチの発達的研究(清水 武:早稲田大学・根ヶ山光一:早稲田大学)

手に持ったものを振ることによって,対象の物理的特徴が視覚に頼らずとも知覚可能であるという。本研究は,このダイナミックタッチと呼ばれる触の探索について,知覚系(Gibson,1966)の概念に従い,発達的に検討をおこなった。探索を検討するにあたり,集団内および個体内での多様性に注目し,システムがより安定した接触形態を模索する発達過程として捉えた。実験は小学生児童21人と大学生14人を対象に棒の長さ知覚課題を設定し,長さを探索する際の棒の持ちかたと振りかたを観察した。結果より,子どもでは特に棒の把握形態に,大人では棒を振る方向について個体内での変動が大きいことが示された。対象を振って知覚するダイナミックタッチの探索は,大人において洗練が進む過程にあり,子どもにおいては振りかたが探されはじめる時期にあると考えられた。最後に,今後の検討課題に関する議論がなされた。
【キー・ワード】 ダイナミックタッチ,触探索,知覚系,小学生,知覚発達

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幼児による想像の現実性判断における状況の迫真性,実在性認識,感情喚起の影響(富田昌平:山口芸術短期大学・小坂圭子:広島大学/現福山平成大学・古賀美幸:総合システム研究所・清水聡子:京都市右京子ども支援センター)

本研究では,Harris, Brown, Marriott, Whittall, & Harmer (1991)の空箱課題を用いて,幼児の想像の現実性判断における状況の迫真性,実在性認識,感情喚起の影響について検討した。2つの実験において,実験者は被験児に2つの空箱を見せ,どちらか一方の箱の中に怪物を想像するように要求した。その際,実験者は被験児に怪物の絵を見せ,その実在性の判断を尋ねた。想像した内容についての言語的判断と,実際的行動を求めた後,実験者は被験児を部屋に一人で残し,その間の行動を隠しカメラで記録した。最後に,実験者は被験児に想像した内容についての言語的判断と感情報告を求めた。状況の迫真性の影響は,実験者が事前に怪物のお話を聞かせる例話条件,実験者が魔女の扮装をしている扮装条件,それらの操作を行わない統制条件との比較によって検討した。実在性認識と感情喚起は,それらの質問に対する回答と他の測度での反応との関連から検討した。以上の結果,(1)状況の迫真性の影響は場面限定的であること,(2)実在性認識の影響は言語的判断における信念の揺らぎに見られること,(3)感情喚起の影響は部屋に一人で残されたときの自発的な行動において見られることが示された。
【キー・ワード】 想像,空想と現実の区別,状況知覚,個人差,幼児期

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青年期の共感性の発達:多次元的視点による検討(登張真稲:白百合女子大学)

既存の複数の共感性尺度をもとに,新たな項目も加えて青年期用の新たな多次元的共感性尺度を作成した。この尺度は共感的関心(他者の不運な感情体験に対し,自分も同じような気持ちになり,他者の状況に対応した,他者志向の暖かい気持ちをもつ),個人的苦痛(他者の苦痛に対して,不安や苦痛など,他者に向かわない自分中心の感情的反応をする),ファンタジー(小説や映画などに登場する架空の他者に感情移入する),気持ちの想像(他者の気持ちや状況を想像する)の4下位尺度からなり,青年前期・中期・後期を通して同じ意味内容で検討でき,利用できる尺度である。既存の共感性尺度や向社会的行動尺度との関係,項目分析,信頼性分析によって尺度の妥当性,信頼性が確認された。この尺度を用いて中学生,高校生,大学生の共感性の発達を検討したところ,男子はどの下位尺度得点も中学生では女子より低いが,共感的関心と気持ちの想像は高校生,大学生と徐々に高くなり,性差は減少する。また,共感的関心と気持ちの想像が高い男子の場合,中学生から高校生にかけて,個人的苦痛を感じる人の比率が高くなり,気持ちの想像が高い男子の場合は高校生から大学生にかけて,個人的苦痛が低い人が増えるという変化がみられた。女子の場合は,共感的関心と気持ちの想像は中学3年生が高いが,その後はやや減少し,ファンタジーが高校生より大学生が高いほかは,顕著な発達的変化はみられなかった。
【キー・ワード】 共感性,多次元的視点,尺度作成,青年期,性差

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青年期自閉症者における鏡像自己認知:健常幼児との比較を通して(赤木和重:神戸大学)

本研究の目的は,青年期自閉症者における鏡像認知の特徴を明らかにすることである。特に,(1)マークが添付された自己像を認識しても自発的にはマークに触らない自閉症者がいるかどうか,(2)マークが添付された自己像を認識した時点で,他者にどのようにこの事態を伝達するかについて明らかにすることを目的とした。知的障害者通所授産施設に在籍する青年期自閉症者35名を対象に,表象機能の発達水準が類似した健常幼児51名と比較した。マークを触るのを引き出すような誘導条件に設定し,マーク課題を行った。その結果,(1)自発的にはマークを触らないが,他者からの働きかけに応じて自己像のマークを触る者が健常児よりも青年期自閉症者に多く見られること。しかも特に一定の発達的特徴をもつ者にみられやすいこと,(2)青年期自閉症者も健常児と同様に,マークのついた自己像を見てとまどいを示す反応をみせるが,そのとまどいを他者に伝達する行動を示しにくいこと,が明らかになった。以上の結果は,生活年齢を重ねた青年期自閉症者の自己認識の特徴や自閉症のコミュニケーションの特徴との関連で考察された。
【キー・ワード】 鏡像自己認知,青年期自閉症者,健常幼児,自発性,伝達意図

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夕食場面における母親・父親の幼児への摂食促し行動と幼児の情動状態との関連:家族システム論的視点から(福田佳織:東京学芸大学)

本研究では,家庭の夕食場面における母親・父親の幼児への摂食促し行動と幼児の情動状態(ポジティブ・ネガティブ)との関連を検討した。また,家族システム論的視点を援用して,母親の摂食促し行動と父親の摂食促し行動の関連,それらの行動と夫婦関係性変数および家族成員の人口統計学的変数との関連を検討した。対象は,4,5歳児を持ち,父母がそろった家庭である。分析には,家族全員がそろった家庭内の夕食場面のビデオ撮影(2回),夫婦関係性および人口統計学的変数を尋ねる質問紙の全データがそろった28家庭を用いた。その結果,母親・父親の摂食促し行動が強いほど幼児のネガティブな情動状態が強いという結果が得られた。さらに,母親が夫婦関係性を良好でないと評価しているほど母親の摂食促し行動が強く,また,対象児の月齢が低いほど,母親も父親も摂食促し行動が強いことが示された。これらの結果は,限定的ではあるが,母親・父親の養育行動と幼児の情動状態が強く関係することを実証的に示したものであり,また,家族システム論の主張とほぼ一致するものであったといえるだろう。
【キー・ワード】 摂食促し行動,幼児の情動状態,家族システム,夫婦関係性,人口統計学的変数

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主観的な感覚としての人格特性的自己効力感尺度(SMSGSE)の開発(三好昭子:立教大学)

本研究では人間の主観的な感覚に焦点を当て,たいていのことはできるような気がするという感覚そのものを直接的に測定する主観的な感覚としての人格特性的自己効力感尺度(the Scale Measuring a Sense of Generalized Self-Efficacy,以下,SMSGSE)を作成した。これは,人間の内にある「主観的な感覚としての人格特性的自己効力感」(a Sense of Generalized Self-Efficacy,以下,主観的な感覚としてのGSE)を反映して外に表れる行動特性を測定するための尺度ではなく,内にある主観的な感覚としてのGSEそのもの,すなわち全般的感覚レベルのGSEを測定するための尺度である。研究1では224名の大学生を対象に質問紙調査を実施し,SMSGSEの信頼性と妥当性について量的に検討した結果,SMSGSEは男女によって平均値に違いのない安定した1因子構造であり,信頼性も高かった。さらに内容的妥当性,構成概念妥当性,基準関連妥当性も高く,6項目の洗練された尺度であることが示された。研究2ではSMSGSE得点の高・中・低得点群,各5名,3名,4名を対象に面接調査を行った。その結果,SMSGSEは日常生活におけるひとりひとりの人間の主観的な感覚としてのGSEを適切に測定しており,併存的妥当性の高いことも示された。今後SMSGSEは,主観的な感覚としてのGSEを測定するために利用されることが期待される。
【キー・ワード】 人格特性的自己効力感,自己効力感,尺度校正,大学生,妥当性,自己

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親になることによる自己概念の変化(小野寺敦子:目白大学)

妊娠7−8カ月から親になって3年間の間にどのように自己概念が変化するかに焦点をあてて検討した。自己概念は,「活動性」「怒り・イライラ」「情緒不安定」「養護性」「神経質」「未成熟」の6尺度,さらには可能自己,自尊感情の視点から縦断研究を行って検討した。その結果,女性は母親になると「怒り・イライラ」が徐々に強くなってきたと自己をとらえていたが,他の5尺度では有意な変化はみられなかった。これは男女ともに気質的な側面を示す自己概念は親になっても比較的安定していることを示している。また親になる前後にみられた自己概念全体のズレの要因を検討した。女性の場合は妊娠期における身体的・精神的戸惑いが,男性の場合は,育児の否定的側面のイメージが希薄であることと,学歴が低いことが自己概念全体のズレと関連していた。また女性は母親になると自尊感情が低くなる傾向が見られた。次に,親としての役割意識の変化を"3つの自分"という観点から検討した。その結果,男女で大きな相違が見られた。女性は母親になると「社会にかかわる自分」が小さくなり「母親としての自分」が大きくなっていた。しかし男性は父親になってからも「父親としての自分」の大きさは変化せず「社会にかかわる自分」の割合が大きくなっていた。
【キー・ワード】 自己概念,可能自己,自尊感情,親になること,3つの自分

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子どもによる親への対人的信頼感:児童・思春期の双生児を対象とした人間行動遺伝学的検討(酒井 厚:山梨大学・菅原ますみ:お茶の水女子大学・菅原健介:聖心女子大学・木島伸彦:慶應義塾大学・眞榮城和美:白百合女子大学・詫摩武俊:東京国際大学・天羽幸子:青山教育研究所)

子どもが親に抱く対人的信頼感は,どのような要因に影響されるのか。従来の研究では,養育者側の環境的な要因と,気質などの子ども側の生得的な要因による影響を別々に検討してきた。本研究では,これら2つの要因の影響を同時に検討するため,人間行動遺伝学的な視点から,子どもが親に抱く対人的信頼感への遺伝要因と環境要因の影響について検討した。児童・思春期(小学校4年生〜中学校3年生)の双生児381組(一卵性215組:二卵性166組)を対象とし,子どもが親に抱く対人的信頼感への遺伝要因と環境要因の相対的な影響率について,子どもの発達段階ごとに単変量遺伝解析を用いて検討した。その結果,子どもが親に抱く対人的信頼感への遺伝要因と環境要因の相対的な影響率は,子どもの発達段階により異なり,相手が母親か父親かによっても異なっていた。また,同一遺伝子を有する一卵性双生児のきょうだいを対象に,親から受ける養育態度を子どもがどう認知しているかによって,親への対人的信頼感が異なるかどうかについて検討した。その結果,親からの養育をより暖かいものと認知している子どもの方が,そうでない子どもよりも親への対人的信頼感が有意に高かった。同一遺伝子を有し成長過程が比較的類似する一卵性双生児においても,養育態度という環境要因によって親への対人的信頼感が異なることが示された。
【キー・ワード】 人間行動遺伝学,児童・思春期,双生児,子どもが親に抱く対人的信頼感,単変量遺伝解析

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14巻3号

非行少年の「問題」はいかに語られるか:ある更生保護施設職員の語りの事例検討(松嶋秀明:名古屋大学大学院/現滋賀県立大学)

非行少年の問題を研究するためには,少年の行為自体や,家族関係などに注目するだけではなく,そこに問題をみてとる側の視点に注目し,実践場面においてどのような知識が意味をもっているのかを調べることも,実践を反省的に見つめなおすためには有用であると思われる。本研究では,ある更生保護施設(A園)で,非行少年の更生・自立を支援する一人の実践家(N氏)のインタビューを,その実践についての観察記録とともに質的に分析した。そして,非行少年の問題が,いかに語りの中で構築されるのかを,実践との関連において検討した。インタビューには4つのテーマがあった。第1に,家族を非行化の原因とする語り,第2に,少年たちの親へ,わが子に対する教育の責任を問うこと,第3に,少年自身を基本的な生活能力を身につけていないものとすること,そして第4に少年との関わりについてであった。各々の特徴は,N氏やA園の実践を,聞き手に意味のあるものとして見せる語り口をとっていた。これらの語りはN氏の実践との関連において考察された。
【キー・ワード】 ナラティブ,非行少年,実践家の視点

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離婚に対する否定的意識の形成過程:大学生を対象として(小田切紀子:東京国際大学)

本研究の目的は,大学生男女646人を対象にして,離婚と離婚家庭に対する否定的意識の形成過程について検討することである。そのために,離婚観,結婚観,性役割観,育児観,家族の信頼感を尋ねる質問紙調査を実施した。その結果,離婚と離婚家庭に対する否定的意識の形成には,結婚と育児に対する意識が関与しており,「伝統的結婚観」,「結婚への期待」,「育児に対する拘束感」が強いほど,離婚と離婚家庭に対して否定的な判断をする傾向が明らかになった。また,離婚に対する否定的意識の形成過程には性差が認められ,性役割を受容していることが,男子の場合は「育児に対する拘束感」を介して,女子の場合は結婚,育児への肯定的意識を介して,離婚に対する否定的意識を強める傾向が明らかになった。以上から,結婚経験のない大学生は,将来の結婚や育児に対する期待や考えをもとにして,離婚に対する否定的意識を形成していることが明らかになった。このことは,離婚が思いこみや固定化されたイメージで判断されていると推測でき,離婚や離婚家庭の実情についてより深く理解することで,それらへの否定的意識が低減する可能性が示唆された。
【キー・ワード】 離婚,離婚家庭,否定的意識,性差,大学生

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歩行開始期における母子の共発達:子どもの反抗・自己主張への母親の適応過程の検討 (坂上裕子:帝京大学/現日立家庭教育研究所)

本研究では2歳児の母親25人に半構造化面接を行い,子どもの反抗や自己主張の本格化に対する母親の適応過程を,グラウンデッド・セオリーの手法を援用し,検討した。子どもの反抗や自己主張の本格化を,成長の現れと捉えていた母親もいたが,母親(特に第1子の母親)の多くは苛立ちや困惑を経験していた。大半の母親は,反抗や自己主張が激しい時やそれらに意図性が窺える時,時間的・精神的余裕がない時に,自身の意図に子どもを強正的に従わせる,自己の視点に焦点化した対応(怒る,突き放す,叩く等)をとることがあると答えた。しかしそれらの対応は母親に,視点の揺れ(子どもの視点から自身の対応や子どもの行動を捉え直すこと)を生じさせることがあった。母親は,以下のことを通じて子どもの反抗や自己主張に適応していったと考えられた:@理解力の向上や興味・感心の拡大といった子どもの発達的変化を利用しながら,互いの理解や譲歩に基づく対立の解決方法を試行錯誤を経て見出すこと,A子どもへの期待や対応を我が子の発達の実情や個性に合うよう修正することで,自己の視点に焦点化した状態から脱すること,B環境に工夫を図ることや自身の苛立ちを統制する方法を見出すことで,自己の視点に焦点化した状態が生じるのを抑制すること。以上の結果より,子どもが反抗期を迎えた時の母親の中心的経験とは,親である自己の視点と子どもの視点の調整を図ることであった,と結論づけられた。
【キー・ワード】 歩行開始期,反抗,自己主張,母親の発達,母子の関係性

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働く母親における仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが抑うつ傾向に及ぼす影響(小泉智恵:労働科学研究所/現国立精神・神経センター・菅原ますみ:お茶の水女子大学・前川暁子:大川学園福祉教育専門学校・北村俊則:熊本大学)

働く母親における仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが母親自身の抑うつ傾向にどのような過程を経て影響を及ぼすのか,そのメカニズムを検討することを目的とした。仮説として仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーの抑うつ傾向に対する直接的影響と,仕事ストレッサー,労働時間,子どもの教育・育児役割負担によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが子育てストレス,夫婦関係を介して抑うつ傾向に及ぼすという間接的影響が提出された。方法は,小学校高学年の子どもをもつ有職の母親で配偶者のある者(246名)と同学年の子どもをもつ無職の母親で配偶者のある者(131名)を対象として質問紙調査をおこなった。有職母親群の分析結果で,分散分析により仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると,抑うつ傾向が高くなるという直接的影響がみとめられた。パス解析により仕事ストレッサー,労働時間の増加によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると,夫婦間の意見の一致を減少させ,子育てストレスを高めることを介して抑うつ傾向を上昇させるという間接的影響がみとめられた。考察では仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが抑うつ傾向に影響しないようにするには,夫婦関係と子育てに関して介入,支援をおこなうこと,仕事ストレッサーの低減と労働時間の短縮が有効である可能性が論じられた。
【キー・ワード】 仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバー,抑うつ傾向,働く母親,夫婦関係,子育てストレス

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幼児の攻撃・拒否的行動と保育者の対応に関する研究:参与観察を通して得られたいじめの実態(畠山美穂:広島大学・山崎 晃:広島大学)

本研究の目的は,以下に示す4つの点を検討することにある。1つめは,幼児期に見られる攻撃・拒否的行動が,いじめとしての3つの要素(@加害者の人数,A攻撃・拒否的行動の継続性,B被害者の精神的苦痛)をもつかどうかについて検討すること。2つめは,いじめ場面に見られる幼児の仲間関係について検討すること。3つめは,いじめとしての性質をもつと判断された攻撃・拒否的行動のエピソードの記述からいじめの様態について検討すること。4つめは,いじめに対する保育者の対応について検討することである。観察対象児は,幼稚園年長児34名(男児16名・女児18名)であり,観察機関は1年間であった。観察方法は参与観察法が用いられ,分析方法はエピソード分析とネットワーク分析を採用した。その結果,特定の女児に対して行われた攻撃・拒否的行動が,いじめとしての3つの要素を満たしたことから,幼児期にもいじめとしての性質をもつ行動が見られることが明らかにされた。そして,いじめを発見するためには,保育者が子どもの発する微妙なサインに対して敏感になる必要があることが示唆された。
【キー・ワード】 参与観察,いじめ,幼児,養育者,ネットワーク分析

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幼稚園での経験,友だち,保育者に関する母子の会話:話題と子どもの語り方についての母親の報告から(小松孝至:大阪教育大学)

本研究は,子どもの幼稚園での経験に関する母子の会話内容とその特徴を検討する。検討にあたっては,子どもが園で出会う他者および他者との関係を含む子ども自身の経験に着目し,質問紙に対する母親の報告から検討した。協力者は幼稚園児の母親235名である。7月と11月に,15種類の話題について,それが取り上げられる頻度の評定,および会話における子どもの語り方の特徴(7項目)に関する評定を母親に求めた。検討の結果,園での遊びや子どもが有能さを感じた経験('できること'),肯定的な情動などの話題の頻度がもっとも高く,他者の特徴や他者との関係もしばしば話題となることが示された。また,この会話に子どもが積極的に参加していることも示唆された。さらに,友だちの性格を取り上げる頻度が7月から11月にかけて増加すること,'保育者にしてもらったこと'に関する話題や,ある話題を繰り返す,他者の真似をするといった語り方の特徴が3歳から5歳にかけ減少するなどの結果がみられた。以上の結果は,園での子どもの経験に関する会話に多く見られる内容や特徴を示すものであり,この会話が生活の中で成立・変化し,社会化の場として機能する様子を検討するための基礎資料を提供するものと考えられる。
【キー・ワード】 幼稚園,母子の会話,対人関係,質問紙調査

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言論の自由に関する判断の発達過程:なぜ年少者は言論の自由を支持しないのか?(長谷川真里:お茶の水女子大学)

本研究の目的は,なぜ年少者は言論の自由をあまり支持しないのかということを検討することであった。研究1において,小学4年生,6年生,中学2年生,高校2年生,大学生(合計176人)は,言論の自由に対する法による制限の正当性を判断した。加齢と共に,推論の様式は,言論内容のみに注目するものから,言論内容と自由を比較考量する様式へ,あるいは聞き手の自由に注目する様式へと変化し,そのような推論の様式の差が自由を支持する程度と関係した。研究2(小学4年生,6年生,中学2年生,高校生,合計127人)では,加齢に伴い,言論の自由を社会的価値としてとらえ,聴衆への影響を低く見積もり,スピーチの中の行為をそれほど悪くないと考える傾向が示された。そして,このような評価が,自由を支持する程度に関係することが示唆された。そして,スピーチ内容の領域によって,それらは異なって関係していた。
【キー・ワード】 社会認識,言論の自由,社会的領域,社会的判断

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