発達心理学研究第21巻(2010年)   


21巻1号

◆ 麻生 良太・丸野 俊一:時間的広がりを持った感情理解の発達変化:状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論へ

本研究では,過去から現在への時間的広がりを持った感情理解の発達は,推論の仕方の発達的差異,すなわち現在の状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論への発達的変化を反映していると想定した。(i)現在の状況に依拠した感情の推論とは,他者が過去に感情を帰属した手がかりが提示されることで,現在の他者の感情を,その手がかりから推論することであり,(ii)他者の思考に依拠した感情の推論とは,他者が過去で感情を帰属しなかった手がかりが提示されることで,現在の他者の感情を,「他者はその手がかりを見て過去を思い出している」という思考にもとづいて推論することである。この仮説を検証するために,3,4,5歳児を対象に,(i)と(ii)のどちらかの推論過程にもとづいて感情を理解する物語課題を提示し,現在の他者の感情を推論させると同時に,その理由を求めた。その結果,3歳児は(i)の推論過程でのみ,4,5歳児は(i)と(ii)両方の推論過程にもとづいた時間的広がりを持った感情理解ができることを示した。これらの結果は仮説を支持するものであり,時間的広がりを持った感情理解の発達変化は推論過程の変化に起因する,また,4歳頃を境として,状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論へと変化することを示唆した。
【キー・ワード】感情理解,原因帰属,手がかり,推論,就学前児

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◆ 河ア 美保:誤解法聴取による正解法理解促進効果:小学5年生の算数授業場面における検討

本研究では,児童が他者の誤りからいかに学ぶことができるかを実証的かつ実践的に検討するため,算数授業において教師から指名された児童が他の児童を代表して解法を発表する場面を構成し,発表される解法を正しい解法のみとするときと誤った解法を含めたときとで聞き手の児童の正解法理解がいかに促進されるかを比較検討した。従来の研究から,正誤解法の提示は事前に正解法を利用する児童に効果があることは知られているが,本研究では,事前に誤解法を利用する児童でも,自らと同じ誤解法が発表される場合は効果が生じることを示す。小学校5年生6クラス170名に算数文章題の授業を行い,児童が正解法を発表し教師も正解法を解説するCC条件と,児童が誤解法を発表し教師は正解法を解説するIC条件を用意し,聞き手児童の事前解法との交互作用を検討した。授業前後のテスト結果より,IC条件では,発表されたものと同じ誤解法を事前に利用していた群の方がそれ以外の誤解法を利用していた群よりも正解法の根拠を高い割合で記述できるようになった。CC条件ではこうした差は見られなかった。この結果から,誤解法の説明は同じ誤解法を使う聞き手の学習に有効であることが示唆された。そのプロセスには,提示される解法と自らの解法とが一致することにより,正誤両解法の対比が行いやすくなり,解法手続きの重要な要素のメタ認知的理解が促進されるメカニズムがあることを考察した。
【キー・ワード】聞き手の学習,誤った解法,算数授業,メタ認知

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◆ 園田 直子・丸野 俊一:知覚的判断から推移律判断にもとづく系列化への変化過程:重さ課題を用いて

従来の系列化に関する研究では,双方向の可逆的な心内操作を行わなくとも成功できる課題が使用されていたために,知覚判断から推移律判断にもとづく系列化への変化のプロセスを明らかにできていなかった。そこで本研究では,視覚的手がかりが使用できない重さの系列化課題を新たに考案し,比較方略から予測される正答率と,実際の正答率を比較することで,その背景にどのような思考方略が使用されているかを考察する。それによって知覚的手がかりを用いる段階から,推移律にもとづく操作が可能になるまでの発達的変化のプロセスを明らかにする。対象は5歳児から12歳児および大学生であった。その結果,(1)知覚手がかりが利用可能な条件では7歳頃に,真の推移律を用いる必要がある条件では12歳頃に系列化が可能になる,(2)推移律にもとづく内的操作が可能になるためには,基準点を固定して双方向の比較を行う方略を利用できなければならない,さらに,真の推移律に至るまでには,1対比較による疑似測定,および「総あたり」による不完全な推移律の段階があることが見出された,(3)推移律判断が完成するにともなって,課題条件によって実行方略が使い分けられていた。この結果は,推移律にもとづく判断による段階に移行しても,使用方略はある方略から別の方略に入れ替わるのではなく,複数の方略が並行して使い分けられているというSiegler(1996)の重層波モデルに符合していた。
【キー・ワード】重さの系列化,推移律,双方向の比較,方略

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◆ 高田 利武:日本人幼児の社会的比較:行動観察による検討

対象とした観察を通じて,検討が加えられた。社会的比較を他者を参照する行為として捉えた上,比較の対象は能力,所有物,地位,行為,特性に,比較の様態は他児への関心,認知明瞭化,直接評価,自己間接評価,他者間接評価,類似確認,達成・競争,模倣に,それぞれ分類された。3つの縦断分析と2つの横断分析を通じて,(1)他児への関心は年齢とともに増大するが,それは女児に顕著である,(2)直接・間接に自他を比較することを通じた自己評価がかなり認められる,(3)類似性の確認は女児,自他の競争は男児に主に見られ,前者は年齢とともに減少する,などが明らかにされた。これらの結果のうち,欧米での先行研究の結果と異なる(1)(2)については,基本的に他者との関係において自己を認識する日本文化の特質,という観点から理解し得ることが示唆された。
【キー・ワード】社会的比較,日本人幼児,参照機能,評価機能,模倣

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◆ 菅井 洋子・秋田喜代美・横山真貴子・野澤 祥子:乳児期の絵本場面における母子の共同注意の指さしをめぐる発達的変化:積木場面との比較による縦断研究

本研究では,乳児期の絵本場面における母子の共同注意の指さしの発達的変化を,積木場面と比較し明らかにすることを目的とした。20組の母子を対象とし,1歳半,2歳半,3歳時期にわたる家庭での観察による縦断研究を実施した。主な結果は次の通りである。?絵本場面での母子相互作用は,指さし生起頻度の指標を用いて積木場面と比較すると,頻繁になされていることが示された。?絵本場面で子どもの指さしは,1歳半,2歳半から3歳時期へ,発話を伴うことで減少することが示された。このことは,幼児期(3歳〜6歳)に,子どもの指さしが消失していく傾向を示した絵本場面研究へ一つの見通しを与えることが示唆された。一方積木場面では,子どもの指さしが1歳半から2歳半,3歳時期へ発話を伴いながら増加していくことが示され,絵本場面とは異なる発達的変化が示唆された。絵本場面では,より幼い1 歳半時期に,子どもが発話を伴わずに指さした時でも,母親と頻繁に共同活動を展開していくことが特徴としてみいだされた。?絵本場面での母子の指さし対象は,絵本の挿絵と文字に加え,周囲の実物にも及ぶことがみいだされた。これらの対象を中心とした共同活動の時期別特徴が示され,絵本だけでなく,現実世界の実物へも注意を向け合い,共同活動を展開していることが示唆された。以上,積木場面との比較から,絵本場面での母子の共同注意の指さしの発達的変化の特徴が示された。
【キー・ワード】指さし,共同注意,絵本場面,積木場面,共同活動

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◆ 氏家 達夫・二宮 克美・五十嵐 敦・井上 裕光・山本 ちか・島 義弘:夫婦関係が中学生の抑うつ症状におよぼす影響:親行動媒介モデルと子どもの知覚媒介モデルの検討

本研究では,2,083組の愛知県と福島県の中学生とその両親を対象に,両親の夫婦間葛藤が子どもの抑うつ症状にどのように影響するのかを検討した。本研究では,先行研究で独立に分析されてきた親行動と子どもの親行動知覚という2つの媒介要因を1つのモデルに組み込んだモデルの検証を試みた。愛知サンプルと福島サンプルで独立に分析をした結果,両親の夫婦間葛藤の直接効果は認められず,包括的モデルが両サンプルともに適合することが示された。夫婦間葛藤は親行動に影響し,子どもに対する親の温かさを低め,冷たさを強めるように働くこと,子どもに対する親行動は,それを子どもがどのように知覚するかを経由して,子どもの抑うつ症状を予測することが示された。先行研究では,両親の夫婦間葛藤が子どもの抑うつ症状に関係するプロセスが性によって異なっていることが示されていたが,本研究の結果は,基本的には男女ともに同じモデルが適合することが示された。
【キー・ワード】中学生,抑うつ症状,夫婦間葛藤,親子関係

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◆ 伊藤 朋子:「ベイズ型くじびき課題」における推論様式の発達的分析:個数表記版・頻度表記版・割合表記版を用いて

本研究では,ヒューリスティックス&バイアスアプローチ(e.g.,Kahneman & Tversky,1973)に対してGigerenzer(e.g.,1991)が行った批判をもとに,課題解決におけるコンピテンス要因として確率量化操作を想定する立場(e.g.,伊藤,2008)から, 個数表記版(伊藤,2008),頻度表記版,割合表記版の3表記からなる「ベイズ型くじびき課題」に対する中学生と大学生の推論様式を発達的に分析した。その結果,個数表記版,頻度表記版,割合表記版のいずれにおいても,正判断率は低く,基準率無視解の出現率も低く,大学生であっても課題構造P(H|D)を正しく把握していないと考えられる連言確率解が頑強に出現すること,また,中学生と大学生の判断タイプの水準には発達的な違いがみられること,が明らかになった。これらの結果から, ベイズ型推論課題の難しさの本質は,Gigerenzer(e.g.,1991)のいうような課題の表記法などのパフォーマンス要因の問題にあるというよりも,P(H|D)という課題構造の把握そのものの難しさというコンピテンス要因の問題にあることが示唆された。
【キー・ワード】ベイズ型推論課題,課題の表記法,確率量化操作,コンピテンス要因,パフォーマンス要因

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◆ 荘島 幸子:性別の変更を望む我が子からカミングアウトを受けた母親による経験の語り直し

本研究は,身体に対する強烈な違和感から,身体的性別を変更することを望む我が子(身体的性別 女性,A)から「私は性同一性障害者であり,将来は外科的手術を行い,身体的に男性になる」とカミングアウトを受けた母親(M)による経験の語り直しに焦点を当てた事例研究である。子からカミングアウトを受けて2年が経過した第1回インタビュー時に,「性別変更を望む我が子を簡単には受け入れることができない」と語っていた母親1名に対し,約1年半の間に3回のインタビューを行った。分析の視点は,【視点1:Aについての語り直しの状況】,【視点2:構成されるMの物語】,【視点3:語りの結び直し】の3つであった。A−M の関係性は,3回のインタビューを経て良好なものへと変化していた。分析の結果,Mが語り直しのなかで,親であることを問い直しながら自らの経験を再編し,M自身の人生の物語を再構成していく過程が明らかにされた。語りを生成する際には,他者(周囲の他者/ 聞き手としての他者)が重要であることが見出された。考察では,自責の念や悔いといった語り直しから母親の生涯発達を捉え,従来の段階モデルを越えた議論を行った。また,Mの語り直しを促進させ,親物語の構成を下支えする1つの軸となる役割を担う存在として聞き手を位置づけた。
【キー・ワード】語り直し,物語,トランスジェンダー/ 性同一性障害,カミングアウト,生涯発達

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◆中島 伸子:年をとるとなぜ皺や白髪が増えるの?:老年期特有の身体外観上の加齢変化についての幼児の理解

素朴生物学研究では,加齢にともない身体サイズが増大するという生物の成長現象については,就学前の幼児でもかなりの程度理解していることが示されてきたが,老化にともなう加齢変化の理解については未解明であった。本研究の目的は,幼児は老年期特有の身体外観上の加齢変化??皺の増加・毛髪の変化??をどのように理解しているかを検討することであった。26名の4歳児,33名の5歳児,24名の大学生を対象として調査を行った。若年成人から老年期においては,成長期に特徴的な身体サイズの増大よりも,皺の量・毛髪の加齢変化が生じやすいことの理解は,4歳ではできないが,5歳から可能であることが示された。さらに,皺の量と毛髪の加齢変化の原因について,もっともらしい説明を選択させる課題を全年齢群に対して行ったところ,4歳児では明確な傾向はみられないが,5歳児は大学生と同様に身体内部的原因(髪の毛を作る体の力が弱くなるから毛髪が減少する等)を人為・外部的原因(髪の毛を切るから毛髪が減少する等)や心理的原因(心配な気持ちになることが多いから毛髪が減少する等)より好む傾向が明確にみられた。これらの結果は,老年期特有の身体外観上の加齢変化についての理解は4歳から5歳にかけて大きく変化することを示唆する。こうした発達的変化について,素朴生物学的概念の発達,特に生気論的因果の獲得という観点から考察した。
【キー・ワード】概念発達,素朴生物学,老化の概念,生気論的因果,幼児期

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◆ 宮里 香・丸野 俊一・堀 憲一郎:他者とのやりとりに伴う身体運動感覚は幼児の比喩理解を促進するか

本研究はごっこ遊びに含まれるどのような要因が幼児の比喩理解を促進するのかを明らかにするため,特にやりとりに伴う身体運動感覚の効果に着目し,非言語的な文脈手がかりがある中での幼児の比喩理解について検討した。実験協力者は年中児,年長児各13名であり,同一の実験協力者に以下の4つの条件でそれぞれ提示された比喩の意味について回答を求めた。実験者と幼児が身体を使ってごっこ遊びをする主体やりとり条件,人形を使ったごっこ遊びをする人形やりとり条件,実験者が提示した言語的文脈に沿って幼児が人形を動かす動き条件,言語的文脈とともに状況的文脈が静的に提示される静止提示条件である。全ての条件で非言語的な文脈手がかりが与えられた。その結果,主体やりとり条件では他の条件よりも人格特性を表す比喩が適切に理解された。さらに非言語的指標を用いた分析から,主体やりとり条件では人形やりとり条件よりも幼児が高い情動反応を示しており,情動反応が大きいほど比喩が適切に理解されたことが示唆された。
【キー・ワード】比喩理解,幼児,身体運動感覚,情動,やりとり

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21巻2号


◆ 今尾 真弓:成人前期から中年期における慢性疾患患者の病気の捉え方の特徴:モーニング・ワークの検討を通して

本研究では,成人期以降に慢性疾患に罹患した人々におけるモーニング・ワークの検討を通して,病気の捉え方の特徴を明らかにすることを目的とした。成人前期から中年期にかけての慢性疾患は,その発達期の特徴から,(A)慢性疾患が深刻な葛藤を伴うものとして経験される,(B)慢性疾患がtypical な「身体の衰え」として,スムースに受け止められるという,2つの異なる類型が出現すると予測された。成人前期から中年期に慢性の腎臓疾患に罹患した11名(男性6名,女性5名)を対象に半構造化面接を実施し,発病後に焦点づけたライフ・ストーリーを聴取した。分析の結果,対象者は(1)病気への葛藤が深刻な群,(2)病気への葛藤が緩やかな群,(3)モーニング・ワークが出現しなかった群の3つに分類され,想定された2つの類型が適切であることが示されるとともに,穏やかな「否認」が出現する類型を加える必要性が示された。また類型の相違には,発病時の症状や,発病前の困難な問題の有無,親や身近な他者の病気・死の経験が関係していた。この中で,身近な他者や親の老い・病気・死といった出来事が,自身の病気を位置づけていく心理過程に重要な意味を持つと考えられたことから,今後はこの問題に焦点をあて,より詳細に検討を行っていく必要性が示された。
【キー・ワード】慢性疾患,モーニング・ワーク,成人期,生涯発達

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◆ 石 晓玲・桂田恵美子:保育園児を持つ母親のディストレス:相互協調性・相互独立性およびソーシャル・サポートとの関連

本研究の目的は,「相互協調性・相互独立性」を認知的スタイルを表す変数とみて,心理学的ストレスモデル(Lazarus & Folkman, 1984/1991)に基づき,育児期母親のディストレスとの関係について検討すること,その際,従来論じられてきたソーシャル・サポートを含めて検討することであった。2〜6歳児を持つ母親272名を対象とした質問紙調査の結果から,日本の育児期母親において,ソーシャル・サポートの効果を統制しても相互協調性・相互独立性が直接母親のディストレスに寄与することが見出された。しかも,相互協調性・相互協調性がいままで強調されてきたソーシャル・サポートよりも重要な要因であることが示唆された。さらに,相互協調性・相互独立性の組み合わせによるパターンの検討からも,相互協調性が高ければディストレスは高まり,相互独立性が高ければディストレスが低くなるという関連性が確認された。以上より,人間関係における文化依存的な認知を変容するアプローチは,育児支援の一つの新しい方向性であることが示唆された。
【キー・ワード】文化的自己観,母親のディストレス,育児支援

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◆佐藤 由宇・櫻井 未央:広汎性発達障害者の自伝に見られる自己の様相

広汎性発達障害者の抱える心理的な問題として,他者との違和感や自分のつかめなさといった自己概念の問題の重要性が近年指摘されているが,その研究は非常に困難である。本研究では,当事者の自伝を,彼らの自己内界に接近できる数少ない優れた資料であると考え,中でも卓越した言語化の能力を有する稀有な当事者による自伝を分析することによって広汎性発達障害者の自己内界に迫り,自己の特徴と自己概念獲得の様相を探索的に明らかにすることを目的とした。1冊の自伝を取り上げ,KJ法で分析を行った。結果,311のエピソードを取り出し,28のカテゴリーを生成した。その当事者の自己の様相においては,自己感の曖昧さや対人的自己認知の困難などの特異的な困難が明らかとなった。それらの困難ゆえに,対人的自己認知の獲得の過程において,主体としての自己を喪失する危機が生じやすいが,その際,自己感の曖昧さや対人接触の拒絶,解離など一般に障害あるいは症状とみなされる現象が危機に対する対処として機能していると考えられた。さらに,対人的自己認知は困難であるとはいえ,対人的経験の中で自己感を得られる新たなコミュニケーションスタイルを獲得しうる可能性も示唆された。
【キー・ワード】広汎性発達障害,自己,自伝分析,自己感の曖昧さ,対人的自己認知の困難

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◆概念変化を捉える新たな枠組みとしての状況-概念相互依存的変動システムの検証:心的特性の起源に関する認識の発達を中心に

本研究の目的は,心的特性の起源(氏か育てか)に関する概念の発達を説明する上で,「概念は,状況・文脈から独立にあらかじめ成立している(伝統的概念観)のではなく,概念と状況・文脈が互いに整合する形で構成されて初めて成立する」という概念観の妥当性・有効性を検討することであった。そのため,小学2〜6年生300名を対象に,特性の起源を問う課題構造は同一であるが,子どもに認知される課題状況・文脈に違いがあると想定される2つの課題(乳児取り替え課題,里子選択課題)を用意し,状況・文脈の違いによって,特性の起源に関する認識に違いが生じるのか否かを実験的に検証した。特に本研究は,あらかじめ場合分けされた知識・概念では対応できないような,場に特有の内容で子どもに認知される状況・文脈(目標解釈や思い入れ,意味づけ)に着目した。結果は,乳児取り替え課題では,特性の規定因を‘生み育て両方’とはみなしにくい低学年児の多くが,里子選択の状況では高学年児と同等に‘生み育て両方’を規定因とみなし,特性の起源に関する認識が状況・文脈に整合する形で即興的に構成されることを示した。こうした結果を受けて考察では,子どもの示す理解の仕方は状況・文脈と一体となって絶えず変動するとみなし,「状況・文脈と概念との相互依存的で整合的な構成のされ方の変化」として概念変化を捉えることが適切ではないかという新たな概念観の有効性を議論した。
【キー・ワード】概念変化,発達メカニズム,状況論,児童,心的特性

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◆ 渡辺  実:知的障害児における文字・書きことばの習得状況と精神年齢との関連

本研究は,知的障害児において,どの程度の精神年齢で,どの程度の文字・書きことばの習得が可能なのかを明らかにし,教育実践に役立てることを目的とする。そこで,知的障害児51名に対してグッドイナフ人物画知能検査を実施し,精神年齢(MA)を測定した。同時に,各児の文字・書きことばの習得状況を調査した。文字・書きことばの習得状況については,8段階に区分した文字・書きことばの習得段階にあてはめて分類した。これらの資料を基に,精神年齢と習得状況の関連について検討した。その結果,MA4:0前後で,かな文字のなぞり書きが可能になる。MA4:6過ぎからは,かな文字の視写が可能になり,かな文字単語を自筆で書ける児童も出現し,生活年齢の高い児童の中には書きことばの短文が書ける児童もいる。MA4:6〜MA5:6では,主部述部を伴う書きことば文の書字が可能になり,MA5:6を超える頃から,統語的に正しく,表現したい自己イメージにそった書きことば文の書字が可能になることが明らかになった。また,MA6:6を超える頃から長文の文章書字が可能になるが,一方で,パターン化した文章表現に留まる児童がいることが示された。知的障害児において,文字は単語や文章中で意味ある書きことばとして意識され,文字と書きことばの双方が密接に関連する中で習得が進んでいくと言える。
【キー・ワード】知的障害児,文字・書きことば,書字技能,習得状況,精神年齢

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◆高坂 康雅:大学生及びその恋人のアイデンティティと“恋愛関係の影響”との関連

本研究の目的は,大学生のアイデンティティの確立の程度及び推測された恋人のアイデンティティの確立の程度と,恋愛関係の影響との関連を検討することである。現在恋人のいる大学生212名を対象に,?坂(2009)の恋愛関係の影響項目40項目,加藤(1983)の同一性地位判別尺度18項目,恋人のアイデンティティの確立の程度を推測できるように修正した同一性地位判別尺度18項目への回答を求めた。その結果,回答者本人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「時間的制約」得点が低かった。また推測された恋人のアイデンティティについて達成型やフォークロージャー型に分類された者は「自己拡大」得点や「充足的気分」得点が高く,「他者交流の制限」得点が低かった。これらの結果から,恋人のアイデンティティが達成型やフォークロージャー型であると,恋愛関係をもつことが青年の人格発達に有益にはたらくことが示唆された。
【キー・ワード】恋愛関係の影響,アイデンティティ,大学生

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◆中川  愛・松村 京子:女子大学生における乳児へのあやし行動:乳児との接触経験による違い

本研究では,女子大学生の乳児への関わり方が乳児との接触経験により違いがみられるかどうかについて,あやし行動,あやし言葉,音声の視点から検討を行った。実験参加者(18〜23歳) は,乳児との接触経験がある女子大学生16名(経験有群),乳児との接触経験がない女子大学生14名(経験無群)である。対象乳児は,生後3〜4ヶ月児(男児3名)である。 実験の結果,あやし行動は,乳児との接触経験有群の方が,経験無群よりも,乳児への行動レパートリーが多く,乳児のぐずりが少なかった。あやし言葉は,経験有群が経験無群よりも発話レパートリーが多く,乳児の気持ちや考えを代弁するような言葉かけをした。音声については,両群ともに乳児へ話しかける声の高さは高くなり,Infant-directed speech の特徴が出現した。さらに,発話速度については,経験有群の方が,ゆっくりと話しかけていた。以上のことから,乳児と接触経験をもっている女子大学生は,多様なあやし行動を身につけていることが示唆された。
【キー・ワード】あやし行動, 対乳児音声,行動分析, 音声分析

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◆石川 隆行:児童の罪悪感と学校適応感の関連

本調査は,小学校4年生,5年生および6年生計367名を対象として,罪悪感と学校適応感の関連を検討した。その際,罪悪感を感じる場面として対人,規則場面を設定し,またそれらの罪悪感場面における子どもの対応として同調と傍観を設定した。調査の結果,対人と規則の両場面において,小学生は同調による罪悪感を傍観による罪悪感よりも強く感じること,また小学校4年生の同調と傍観による罪悪感が小学校6年生よりも強いことが見いだされた。性差については,女子小学生が男子小学生よりも同調と傍観による罪悪感を経験しやすいことが明らかになった。一方,罪悪感と学校適応感の関連を検討するため,学年,男女別に相関分析を行ったところ,すべての学年,性別において罪悪感と学校適応感の関連が認められた。また,その関連においては,小学校6年生にのみ罪悪感と級友関係(正)の関連が低いながら認められ,他学年とは異なる発達的様相が示された。このことから,問題場面において強く罪悪感を感じる児童は学校で上手く生活を送ることができ,また小学校6 年生の罪悪感には良好な友達関係が関連する可能性が明らかになった。以上より,学校教育の中で子どもの適切な罪悪感の喚起を促すことができ,そのことが問題行動において傍観する子どもを減少させることに繋がると示唆された。
【キー・ワード】児童,罪悪感,学校適応感,対人場面,規則場面

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21巻3号


◆ 先ア真奈美・柴山 真琴:体操教室における児童期の自己制御行動のエスノグラフィー:日本学校通学児と国際学校通学児の行動方略

本研究では,幼児期までに異なった自己制御行動を発達させつつあるとされる小学生が出会い,同じ活動に参加する時に,どのような自己制御行動をとるかを,ある体操教室でのフィールドワークに基づいて明らかにすることを目的とする。研究方法は,エスノグラフィーの手法を採用し,実際の場面で子どもが他者とやりとりをする中で,自己制御行動がどのように生起しているのかを検討した。日本学校通学児5名と国際学校通学児3名を対象とし,2006年7月から2007年3月までの間に23回観察を行った。分析の結果,国際学校通学児は自己主張・実現行動の方略が日本学校通学児よりも多様であるだけでなく,自己主張行動では複数の自己主張・実現行動カテゴリーを組み合わせた方略を用いていた。一方,日本学校通学児は,自己抑制行動の対象とする幅が国際学校通学児よりも広く,さらに自己主張・実現行動とも自己抑制行動とも捉えられる自己主張/自己抑制行動をとっていることが明らかになった。
【キー・ワード】自己制御行動,エスノグラフィー,日本学校通学児,国際学校通学児

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◆ 小川 絢子・子安 増生:幼児期における他者の誤信念に基づく行動への理由づけと実行機能の関連性

本研究では, 実行機能,特にワーキングメモリと葛藤抑制の機能が他者の誤信念に基づく行動への理由づけにどのような影響を与えるのかを検討した。3〜5歳児70名を対象に理由づけ質問を含む誤った信念課題と実行機能課題,語彙検査を実施した。結果,月齢や言語能力の影響を除いても,単語逆唱スパン課題で測定されたワーキングメモリの機能が他者の誤った行動に対する適切な理由づけに影響することがわかった。この結果は,他者の誤った行動に対して,過去の他者の行動や認識状態に言及して理由づけするためには,呈示されたストーリーの内容を保持しておき,求められたときにストーリー中の必要な情報を活性化することが必要になることを示唆している。加えて,赤/青課題で測定された葛藤抑制の成績が,現在の状況に固執した理由づけを行うかどうかを予測することがわかった。この結果は,他者の誤った行動に対しても,現在の現実の状況のみに言及する子どもは,葛藤抑制の機能が弱く,対象の場所のような現在の情報を抑制しておくことが難しいことを示している。
【キー・ワード】他者の誤信念に基づく行動への理由づけ,実行機能,ワーキングメモリ, 葛藤抑制

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◆ 志波 泰子:幼児の単語学習課題における意図と誤信念の理解の乖離

先行研究で,言語コミュニケーション領域では,「心の理論」の獲得以前に,幼児は話者の誤信念をより良く理解し,単語を学習すること,さらに,話者の誤信念表象は行為の予測領域の誤信念表象に先行して理解され,2つの領域の思考メカニズムは違っている可能性があることが提起された。本研究では,1. 言語コミュニケーション領域では,幼児は,相手の注意をあるものに向けようとする話者の「伝達意図」を理解し,誤信念の理解を前提とせずに話者の意図を推論できること,2. 話者の意図は行為の予測よりもより良く,早く理解され,行為の予測領域とは意図の推論メカニズムが違っていること,さらに,3.話者の誤信念の理解と行為の予測の誤信念の理解は思考メカニズムが違うとはいえないという3つの仮説を検討した。3歳から5歳の子どもたちに,主人公が新奇なおもちゃに命名する単語学習課題と標準誤信念課題を用いて調査した結果は,人と物の関係性の強い単語学習課題では,彼らは話者の誤信念の理解を前提とせずに話者の意図を推論し,単語を学習できた。言語コミュニケーション領域では意図は誤信念を前提とせず,行為の予測領域よりもより良く,早く理解され,2つの領域の意図の推論メカニズムは違うといえた。絵カード物語に手続きを変更した課題では,話者の誤信念と行為予測の誤信念の理解には差がなく,2つの領域の誤信念の理解は思考メカニズムが違うとはいえなかった。
【キー・ワード】心の理論,誤信念表象,伝達意図,単語学習課題,標準誤信念課題

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◆ 水本 深喜・山根 律子:青年期から成人期への移行期の女性における母親との距離の意味:精神的自立・精神的適応との関連性から

本研究では,近年特に距離の近さを増しているとされる母娘関係に注目し,その距離が成人期へ移行しようとしている娘の自立や適応にどのように関わっているのかを明らかにする。これにあたり,大学生女子(n=173)とその母親(n=149)から質問紙調査により収集したペアデータを用い,青年期から成人期への移行期にある女性とその母親との距離にどのような特性があるのかを明らかにし,これらと女性の自立や適応との関連性を検討した。まず,母親との距離と精神的自立の各因子のプロフィールより,母娘関係を「密着型」,「依存型」,「母子関係疎型」,「自立型」に類型化した。次にこの類型を基に母親との距離がどのような場合に娘の自立や適応に促進的に働き,どのような場合に抑制的に働くのかを探っ た。その結果,母娘間距離には,遠近といった量的特性のみでなく,その関係性において娘が自己統制感を持つことができているかどうかという質的特性があり,これらが娘の自立や適応と関わっていることが明らかになった。さらに,この距離認知の母娘間におけるズレを検討した結果,このズレはその関係性における情緒的絆と関連して娘の自立や適応に影響を与える要因となるような個体差的側面と,自立に向けて関係性が変化していることを示す発達的側面を反映していると考えられ,自立の時期の親子関係を理解する手がかりとなり得ることが示唆された。
【キー・ワード】青年期から成人期への移行期,母娘間距離,精神的自立,精神的適応,母娘間距離認知のズレ

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◆ 深瀬 裕子・岡本 祐子:老年期における心理社会的課題の特質:Erikson による精神分析的個体発達分化の図式 第[段階の再検討

本研究は,Erikson(1950/1977・1980)の精神分析的個体発達分化の図式Epigenetic schemeにおいて空欄となっている老年期における8 つの心理社会的課題を示し,Erikson, Erikson, & Kivnick(1986/1990)との比較から,日本における心理社会的課題の特質を検討することを目的とした。高齢者20名を対象にErikson et al.と同様の手続きによる半構造化面接を行った。その結果,8つの心理社会的課題を説明する肯定的要素と否定的要素,および課題に取り組むための努力である中立的要素がそれぞれ抽出された。これらより,第[段階における8つの心理社会的課題を具体的に示した。また,各課題に取り組む際に,戦争体験,家制度,社会の中での高齢者の地位という日本独自の文化が影響していることが示唆された。以上の知見は社会参加に積極的な人々における心理社会的課題の取り組み方を示すものであり,特に高齢者の心理社会的課題を理解する上で重要であると考えられた。
【キー・ワード】老年期,心理社会的課題,精神分析的個体発達分化の図式,E.H. Erikson,統合対絶望

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◆ 石本 雄真:青年期の居場所感が心理的適応,学校適応に与える影響

本研究は,教育臨床や心理臨床の領域での視点から捉えた居場所感が青年期の学校適応,心理的適応に対してどのような影響を与えるのかについて検討することを目的とした。「ありのままでいられる」ことと「役に立っていると思える」ことから居場所感を捉える尺度を作成し,家族関係・友人関係・クラス関係・恋人関係といった対人関係の種類ごとに居場所感と学校適応,心理的適応との関連を検討した。大学生188名,中学生384名を対象に関係ごとの居場所感,学校生活享受感,自己肯定意識について測定した。その結果,対人関係の種類ごとに自己肯定意識や学校生活享受感に影響を与える居場所感の因子が異なっていることが分かった。中学生では,自己肯定意識に対して家族関係での居場所感が概ね促進的な影響を与えていたが,大学生では家族関係での居場所感はほとんど影響を与えていなかった。また中学生では,学校生活享受感に対して複数の対人関係における居場所感が促進的な影響を示していたが,大学生ではいずれの対人関係における居場所感についても学校生活享受感に対しての影響がみられなかった。中学生においては,男子はクラス関係での自己有用感の他に家族関係での本来感が学校生活享受感に促進的な影響を示していたが,女子は友人関係での本来感が影響を示していた。これらのことから,年齢,性別ごとに居場所として重要となる対人関係の種類が異なるということが明らかになった。
【キー・ワード】居場所,本来感,自己有用感,友人関係,学校適応

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◆ 山内 星子:母親の感情特性が青年の感情特性に与える影響:感情のデュアルプロセスモデルの枠組みから

本研究は,感情のデュアルプロセス理論の枠組みを用いて,母親の感情特性が青年の感情特性に影響を与えるメカニズムを検討することを目的とした。感情生起に先行する認知的評価の枠組みが母親から子へと言語的やりとりを媒介して伝達し,間接的に青年の感情特性に影響するという“認知レベルの学習”と,母親の感情特性が連合学習によって直接的に青年の感情特性に影響するという“行動レベルの学習”の2つの学習の存在を仮定した。高校生97名とその母親(計194名)から得られたペアデータに対して共分散構造分析を行ったところ,4つの感情(怒り,悲しみ,不安,恥)において“認知レベルの学習”のみが見出された。一方,“行動レベルの学習”はいずれの感情においても見出されなかった。この結果は,青年の感情特性が,連合学習のようなシンプルなメカニズムではなく,認知的評価に関する母親との言語的やりとりのような,比較的高度な認知処理をともなう過程によって形成されていることを示唆しており,不適応的な感情特性の形成に対する予防的アプローチの可能性が示唆された。
【キー・ワード】感情特性,認知的評価,感情のデュアルプロセス理論,共分散構造分析

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21巻4号


◆ 内田 伸子・小林 肖:幼児は未知人物の誘いにどのように対処するか:子どもの安全・防犯教育の発達心理学的検討

子どもを略取誘拐事件から守ることは現代社会における最重要課題の一つである。本研究の目的は幼児が未知人物の誘いから危険を感知し,危険回避行動をとるのにどのような認知機能がかかわっているかを検討した。この問題を明らかにするために,研究1では,幼児が,大人――よく知っている人か,見知らぬ人か――に誘われる場面で誘う口実の緊急度の要因を統制して危険回避行動がとれるかどうかを検討した。その結果,4歳児と5歳児とでは危険回避行動に大きな違いがあることが判明した。4歳児(5歳前半)は誘う人物の意図を推測できず,状況の緊急性に基づいて判断するため,危険が回避できない。しかし,5歳児(5歳後半)は,未知人物の誘いの意図を推測し,口実の緊急性にかかわらず,誘いにのらないという危険回避行動をとることができる。5歳前半と5歳後半で顕著な差が見られるのは認知発達の質的な違い,すなわち,メタ認知能力,展示ルール,プラン能力の質的な発達差によると推測される。研究2では,教授実験パラダイムを用いて大人が子どもにどのように教えたら,危険回避行動を選択できるようになるかについて検討した。その結果,4歳児であっても,未知人物の誘いの意図に注目させるような教え方をすると,未知人物の誘いに応じないで危険が回避できる可能性が示唆された。これらの知見から,幼児期の安全・防犯教育においては,子どもの認知発達に適応的な教示が与えられることが必要であることが示唆された。
【キー・ワード】幼児(就学前児)未知人物の誘い場面,安全・防犯教育のデザイン,誘拐,認知発達

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◆ 清水 由紀:幼児・児童は危険回避行動と向社会的行動のいずれを優先させるか:安全教育のデザインのための基礎的研究

幼児期から児童期にかけて,危険回避行動と向社会的行動のジレンマ場面において子どもがとる方略にどのような発達過程が見られるのかについて,実験的に検討した。幼児(5〜6歳児)と児童(1・2年生)計85名を対象として,見知らぬ人(ストレンジャー)から助けを求められる場面を提示し,子どもの選択する行動を調べた。その結果,いずれの年齢群においても危険回避を優先させることが示された。ただし,この時期の子どもは,自らの欲求を優先させる傾向があることに加えて,危険認知がまだ十分でないことから,子ども自身とストレンジャーの欲求の方向性が一致している場合は,見知らぬ人について行くと回答しやすいことが明らかになった。また特に幼児においては,他者の認知におけるポジティビティ・バイアスが,ストレンジャーに「ついて行く」「道を教える」という判断と関連していることが示唆された。行動範囲が変わり,危険回避を取り巻く状況が変化する幼児期から児童期への接続期において,子どもに対しどのような安全教育がなされるべきかという観点から考察された。
【キー・ワード】危険認知,向社会的行動,安全教育

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◆ 江尻 桂子:幼児・児童における危険認知の発達:子どもの安全・防犯教育を考えるための発達心理学的アプローチ

本研究では,幼児・児童が,いつ頃から,未知人物との接触場面における危険の可能性について認識できるようになり,その認識のもとに,適切な行動の選択ができるようになるかを検討した。実験では,保育園年中児,年長児,小学校1年生,2年生,あわせて166名を対象に,個別面接のかたちで紙芝居と質問を行った。紙芝居では,主人公の子どもがひとりで歩いて家に帰っているときに「よく知っている人」または「全く知らない人」に何らかの誘いを受けるというストーリーを読み聞かせた。そして,もし自分が主人公であったらどのように行動するのか,また,なぜそのように行動しようと思うのかを尋ねた。実験の結果,年中から年長(4〜6歳)にかけて,接近してくる大人が既知の人物であるか,未知の人物であるかによって適切な行動を選択できるようになることがわかった(e.g.,未知人物にはついて行かない)。しかし,その際の判断の理由をみると,年長児でも必ずしも適切な理由(人物の既知性や危険性)に基づいて行動を選択しているわけではないこと,そして,正しい認識に基づいた行動の選択ができるようになるのは,小学1年生(6〜7歳)以上であることが明らかとなった。本研究の結果をふまえ,幼児・児童における,発達水準に応じた安全・防犯教育のあり方について議論した。
【キー・ワード】防犯教育,安全教育,危険認知,認知発達,幼児

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◆ 杉村 智子:幼児の目撃記憶の発達:顔の再認成績に及ぼす言語供述の影響

顔などの視覚情報の特徴を言語で表現すると,後の視覚情報による再認成績が低下する現象は言語隠蔽効果(Schooler & Engstler-Schooler, 1990)として知られている。本研究では,幼児を対象として,ライブイベントを目撃した際の人物の顔の再認記憶において言語隠蔽効果が見られるかどうかを検討した。調査対象者には,女性が紙芝居を読み男性が紙芝居の手伝いをするという出来事を目撃させ,約1日後に,出来事の内容についての自由再生と,顔の再認課題を行わせた。その際,言語群には,人物の顔や髪型等の人物の特徴についての言語供述を行わせたあとに再認課題を行わせ,統制群には再認課題のみを行わせた。その結果,言語群のほうが再認成績が低い傾向にあった。また,言語群の言語供述については,人物同定の手がかりとはならない主観的情報や誤った情報が述べられる傾向がみられた。これらの結果が,言語隠蔽効果が生起する認知過程の観点と,子どもの目撃証言に関わる実用的観点から考察された。
【キー・ワード】幼児,目撃記憶,顔の再認,言語隠蔽効果

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◆ 岡本 依子・菅野 幸恵・東海林麗香・八木下(川田)暁子・青木 弥生・石川あゆち・亀井美弥子・川田 学・高橋 千枝:親が抱く子どもの安全への心配:妊娠期から小学校入学までの縦断研究から

親が抱える子どもの安全についての心配は,子どもの成長につれてどのように変化するのだろうか。本研究では,妊娠期から小学校入学後までの7年間にわたる母親へのインタビューを通して,母親が語る子どもの安全についての心配を検討した。分析1では,エピソードの概要を捉えるべく,子どもの安全への心配として,どのようなテーマが語られたかを整理し,子どもの被害―加害状況および心配の現実度の点から,カテゴリを準備し時間軸上で検討した。分析2では,それぞれのエピソードを詳細に検討するため,質的分析を試みた。その結果,子どもの安全への心配についての,母親の語りは,妊娠期から0歳代には,事件,1〜2歳代さらに3〜5歳のころには,事故やいざこざ,その後半期にはきょうだいげんか,さらに,小学校に入学すると,ふたたび事件へと焦点化されていることがわかった。また,入学後の事件の語りは,それ以前の安全への心配の語り方と大きく異なることから,小学校への移行の問題について議論した。
【キー・ワード】安全についての心配,子育て,小学校への移行,縦断研究

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◆ 仲 真紀子:子どもによるポジティブ,ネガティブな気持ちの表現:安全,非安全な状況にかかわる感情語の使用

気持ちや感情は,出来事の重要な要素であり,司法場面においても有用な情報である。本研究の目的は,子どもの安全,保護という観点から,子どもが気持ちをどのように表現するのかを発達的に調査することであった。幼児,小学校1年,2年,4年,6年の計127人に10の人形劇(なくした眼鏡を見つける,無理矢理遊びに誘われる,理不尽にどなられる等)を示し,登場する人形の気持ちについて質問した。その結果,幼児においては1/3 の反応が“分からない”であったが,年齢発達ともに,内的状態( 悲しい等)や,行動(〜している),期待(〜したい),疑問(どうして〜になったのか)などに言及することで,人形の気持ちを表現するようになった。全体として,ポジティブな気持ちよりもネガティブな気持ちを表す表現の方が多様であり,また,性差が見られた。これらは先行研究と一致する結果である。この結果を踏まえて,司法面接(捜査面接)への適用におけるいくつかの制約について議論した。
【キー・ワード】気持ちの表現,感情語,幼児,児童,司法面接

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◆ 藤井 義久:小学生の犯罪不安と防犯意識に関する発達的研究

本研究の目的は,小学校の防犯教育において活用できる「犯罪不安尺度」及び「防犯意識尺度」を開発し,小学生の犯罪不安と防犯意識の発達的変化について明らかにすることであった。調査対象者は,岩手県内の小学校4校と東京都内の小学校3校の4年生から6年生の児童,計1292名(男子662名,女子630名)であった。項目分析及び因子分析の結果,「不審者不安」,「外出不安」,「犯罪発生状況不安」という3つの下位尺度からなる「小学生版犯罪不安尺度」(30項目)と,「危険回避能力」,「外での防犯対策」,「家での防犯対策」,「コミュニュケーション」,「油断」,「注意」という6つの下位尺度からなる「小学生版防犯意識尺度」(30項目)を開発した。そして,それらの尺度を用いて,次のようなことがわかった。第1に,犯罪不安水準,防犯意識水準とも,女子の方が高く,学年が上がるにつれて有意に下がる傾向が見られた。第2に,犯罪不安水準と防犯意識水準とにはある程度の関連性がある。そして,パス解析の結果,男子においては犯罪不安水準を全体的に高めることによって周りに注意を払うといった防犯意識を高めることにつながり,女子においては,外出時における犯罪不安を高めるだけで防犯意識水準が全体的に高まる可能性の高いことが示唆された。
【キー・ワード】小学校,防犯教育,犯罪不安,防犯意識

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◆ 根ヶ山光一:巨大地震への対応にみられる親子関係:子別れの観点からの検討

環境対処能力の発達を明らかにする目的で,1995年1月に発生した兵庫県南部地震への子どもと親の反応が兵庫県下のニュータウンで調べられた。対象とされたのは同ニュータウンの私立Y幼稚園に通園する園児とそのきょうだい315名(0〜16歳;平均6.1歳,SD = 2.4;男児176名,女児136名;第1子166名)とその両親である.地震発生時75.2%の子どもが親と同室就寝しており,10.5%が一人で寝ていた。地震に対して親は大きな驚きを示したが,子どもの約30%は驚きをほとんどあるいは全く示していなかった。年少の子どもほど驚きが少なく,その変節点は7歳であった。親の多くは子どもを抱いたりその上におおい被さったりして,身をもって子どもを守ろうとしていた。それは幼い子どもの場合により顕著であったが,手を握って安心させる,あるいは声をかけるという保護行動が年齢とともに増加していた。子どもの自発的行動は,親のもとに来るという行動から布団をかぶるという行動へと発達的に変化していた。これらの結果をもとに,子どもの生命を誰がどう守るのかが子別れの観点から議論された。
【キー・ワード】地震,環境対処能力,自律性,親の保護,子別れ

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◆ 宮田美恵子:危険人物との遭遇場面における子どもの危機認知と離脱行動に関する研究

子どもの犯罪からの安全確保が社会的課題となっている。中でも小学校に通う児童に対する犯罪被害が多くみられることから,警察や地域で様々な対策が講じられ,学校や家庭においても安全教育が実施され始めている。しかし,平時の日常とは異なる前犯罪および緊急性の高い犯罪行為遭遇時という非日常の場面で,実際児童は未知の人にどのように違和感や危機を認知し,それによってどう行動を起こすのかの特性や傾向に関するデータは少ない。同様に,そこに発達段階や性差があるのか否かについての資料も多くはないという状態の下で,安全教育が模索され実施されているのである。そのため本研究では,子どもの実態に即した安全教育のデータとすることを目的に,緊急時の児童に生じる行動特性に着目して,児童は何に違和感を持ち,何を危機だと捉えているのかを中心に,いわゆる不審者の認知から危機離脱までの一連の行動を探った。本研究によって得られた基礎的データから安全教育の方向性を示した。
【キー・ワード】犯罪被害,安全教育,発達段階,緊急時行動特性,未知の人

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