発達心理学研究第28巻(2017年刊行予定)


27巻4号


◆堀井 順平:大学受験のとらえ方およびコーピングの組み合わせによる自己効力感の差異:特性的自己効力感とキャリア選択自己効力感に着目して

本研究では,大学受験のとらえ方と大学受験に対するコーピングの組み合わせによる,特性的自己効力感やキャリア選択自己効力感の高さの違いについて検討した。まず,クラスター分析により,大学受験のとらえ方と大学受験に対するコーピングの組み合わせを抽出した。その結果,“肯定・積極群”,“半肯定・消極傾向群”,“否定・消極群”,“大学受験無関心群”の4群が抽出された。さらに,以上の4群を独立変数,特性的自己効力感およびキャリア選択自己効力感の下位尺度を従属変数として1要因分散分析を行なったところ,特性的自己効力感,目標選択および意思決定の主体性度において有意差が認められた。多重比較の結果,特性的自己効力感においては,“肯定・積極群”が“否定・消極群”や“大学受験無関心群”より有意に得点が高かった。また,目標選択においては,“肯定・積極群”が“否定・消極群”より有意に得点が高かった。さらに,意思決定の主体性度においては,“肯定・積極群”が“否定・消極群”より有意に得点が高く,“大学受験無関心群”が他の3群より有意に得点が低かった。以上の結果より,大学受験のとらえ方と大学受験に対するコーピングの組み合わせにより,特性的自己効力感とキャリア選択自己効力感の一部の高さが異なることが明らかとなった。そして,大学生を対象としたキャリア支援で,大学受験を視野に入れることの重要性が示唆された。
【キーワード】大学受験のとらえ方,大学受験に対するコーピング,特性的自己効力感,キャリア選択自己効力感,大学生

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◆外山 紀子:幼児期における選択的信頼の発達

ここ10年ほどの間に,幼児の選択的信頼(あるいは選択的な社会的学習)について多くの研究が行われるようになった。選択的信頼とは情報源としての信頼性という点から他者を区別し,特定の他者から学ぼうとする傾向をいう。これらの研究は,伝統的な子ども観,すなわち子どもは他者を信じやすく(あるいは騙されやすく),たとえ自分の考えとは異なるものでも他者の言うことを信じる傾向があるという見方に異議を唱えるものである。本稿では幼児期の選択的信頼に関する研究を,他者の認識論的属性(情報の正確さや確信度,専門性など)と非認識論的属性(年齢,馴染み,話しことばの特徴,身体的魅力や社会的地位など)という点から分けて,整理を行った。これまでの研究は幼児(とりわけ3歳児)の能力をどう評価するかについて,一種の緊張状態の中にあり,幼児が他者の情報を鵜呑みにせず合理的な手がかりに基づいて情報源を選択する能力があることをアピールする研究もあれば,逆に,他者の情報に懐疑的な目を向けることがいかに困難であるかを強調した研究もある。現在までの研究の概観をふまえた上で,このまだ若い研究分野が実践的,学術的にどのような意義をもつのか,そして今後の課題について論じた。
【キーワード】選択的信頼,選択的な社会的学習,認知発達,幼児

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