発達心理学研究第4巻(1993年) 要約


4巻1号

「発話にともなう手振り」の現れと視覚的他者


(佐々木正人:早稲田大学人間科学部)

日常的に観察できる発話にともなって表出する手振りの現れに視覚的な他者の見えがどのように影響するのかについて検討した。観察対象は,開眼大学生,目隠し大学生,中途失明成人,早期に失明した成人の各6名であった。
彼らに「問題解決」,「概念の説明」など10課題を口頭で提示し,それに解答する過程をビデオで記録し分析した。
手振りの発話に対する出現率は開眼大学生,目隠し大学生,中途失明の順に高かった。また早期失明者にはこの種の手振りがほとんど観察できなかった。手振りの観察された3群では,個々の手振りを発話と意味的,時間的に関連させる分類が行われた。発話の品詞が動詞の時には手振りが発話に先行するケースが比較的多かった。出現率の結果は文が内的に生成される認知的過程だけにこの種の手振りの起源をもとめる「表出説」
に矛盾するものであった。最後に発話にともなう手振りにおよぼす他者との視覚的なコミュニケーションの役割がMead,G.H.の「有意味シンボル論」などとの関連で議論された。

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天秤課題における小学生の科学的推論過程の発達

(大島純:オンタリオ教育研究所応用認知科学センター)

本研究の目的は,二重空間探索としての科学的発見モデル(Klahr&Dunbar,1988)に基づいて,子どもの科学的推論過程の発達を詳細に検討することである。30名の被験者(小学校4〜6年生)は,天秤の動きについて,彼らの仮説を尋ねられ,さらにその後,実験セッションで12問のフイードバック課題を呈示された。各実験において,被験者は課題の結果を予測し,その理由を述べるように指示された。また,結果を見た後にその結果を解釈するように教示された。プロトコルを基に,被験者が,どのように問題空間を探索しているかが分析された。その結果,以下のことが明らかになった。第1に,被験者の多くは,仮説・実験空間を頻繁に探索していた。第2に,6年生は実験過程の前半において頻繁に空間移行を示し,4,5年生では後半において頻繁に空間移行を示した。第3に,課題のフィード・バックを,既有仮説を用いて解釈する傾向が4〜5年生において上昇するのに対して,6年生では,その傾向が減少するという,学年差が見られた。第4に,実験結果から,新たな情報を引き出そうとする時,4年生は不明確な仮説を示すことが多く,それに対し,6年生は明確な仮説を引き出すことが多いという学年差が見られた。本研究では,これらの学年差は,二重空間探索としての科学的発見モデルにおける,認知発達的差異という観点から考察された。

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統合保育における軽度精神発達遅滞幼児に対する健常幼児の態度の研究

(戸田有一:鳥取大学教育学部)

統合保育が直面している課題の一つは,発達遅滞幼児と健常幼児の仲間関係をいかによりよくするかである。この課題の解決への糸口を探すため,幼児の軽度精神発達遅滞幼児(MR児)と健常幼児に対する態度(行為意図)とその理由を面接で尋ねた。6つの保育園で,それぞれ3人の幼児(l人のMR児と2人の健常児)をターゲットに選び,その6園の210人の幼児(4歳児が104人,5歳児が106人)に個別面接を行った。写真で提示したターゲット児と散歩の時に手をつなぎたいか,お昼を隣で食べたいかなどを,その行為を行っている図版を示しつつ尋ねた。MR児に対する行為意図と健常児に対する行為意図に一定方向の違いは見られなかった。ターゲット児による行為意図の違いへの社会的接触の差異・年齢・性別の3要因での交互作用は有意であったが,他の交互作用や主効果は有意ではなかった。選好・非選好の理由としてMR児は能力的側面に,非選好理由として健常児は性格的側面に言及されることが多かった。

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幼児の数転換能力の獲得における数詞の役割

(丸山良平:上越教育大学学校教育学部)

本研究は,集合や数記号から把握した数をそれぞれ別の媒体で表現することを数転換と定義した。これまでの幼児数概念研究では具体から抽象へという概念の階層構造から具体物集合と数記号の間に仲介として半具体物の挿入が提唱されていた。その一方幼児の発達研究では,数転換に際して数詞の使用が有効であることが示唆されている。
そこで本研究では幼児の数転換能力の獲得における数詞の役割を検討し,さらに半具体物の役割を考察することを目的とした。対象児は日本の2幼稚園に就園する3歳〜5歳児期(月齢45〜82カ月)の幼児355人であった。調査課題は具体物,数詞,数図及び数字により構成された。得られた資料の分析結果は次の点を明らかにした。(1)数詞への数転換が最も早くに獲得され,数図への数転換の獲得が最も遅れる。(2)数転換の際に数詞はピボットとして使用され,具体物から数字及び数図への数転換に介在することが示唆される。本研究は数転換の獲得が具体物集合を命名することから始まり,そして数転換では数詞の役割が重要であることを示した。子どもは数図でも具体物集合でも集合として同様に扱う。従って,子どもが具体物で数の知識を構成できるなら,特に数図を導入する必要はないと考える。本研究ではこれまでいわれていた半具体物を具体物集合と数記号の間に特別に挿入させる役割は見いだせなかった。

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乳児の気質の構造:情動表出傾向及び接近傾向における一考察

(草薙恵美子:北海道大学教育学研究科)

気質と関連するとおもわれる変数間の関係について,これまであまり明らかにされていない。本研究の目的は快,恐れ,怒りの表出の個人差の間の関係,及び快,恐れの個人差と接近傾向の間のそれぞれの関係を検討することである。21名の乳児を情動的及び運動的反応を評定するために実験室において親祭した。また,日常生活での情動性を評定するために母親の記入した気質質問紙も用いた。得られた結果は次のようになった。
(1)快,恐れ,怒りの表出傾向は互いに独立である。(2)実験室での反応及び質問紙の結果からより恐ろしがりの乳児は新奇性の高い刺激物に対してより遅く接近する傾向がある。(3)社会的場面でより微笑・笑いを示す乳児は新奇性の高い刺激物に対してよりはやく接近する傾向がある。これらの結果から,各々の情動性を気質の構成要素と考える理論が支持され,また,接近における個人差は快及び恐れの傾向と独立ではないということが示唆される。

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幼児のプラン共有に保育者はどのようにかかわっているか

(高濱裕子:福島女子短期大学)

幼児の“プラン共有”に,保育者がどのような影響を与えているのかを検討した。幼稚園期2年間におけるごっこ遊びの発達は,保育者と幼児との相互交渉を通して検討された。その際,保育者と幼児とのコミュニケーションプロセスに,Bruner(1983/1988)の“フォーマット”の概念を援用して,分析的に捉えた。
2名の幼児の遊びとそ
こに関わる1名の保育者の行動とは,幼稚園において毎週l回,2年間に渡って縦断的に親祭された。プランの共有面から分析した結果,幼稚園期のごっこ遊びには,4段階の発達段階が見出された。また,幼児の遊びの質的変化に対応させて,保育者も段階的にフォーマットを変容させていることが明らかになった。
これら5段階のフォーマットは,f1:仮想−オープン,f2:依頼一援助,f3:折衝−意味付与,f4:要請−協同解決,f5:表明−承認と命名された。フォーマットの概念は,保育分析の枠組みとして十分に有効であることが示された。

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幼児における社会的コンピテンスの諸測度間の相互関連性とその個人差

(柴田利男:同志社大学文学部)

社会的コンピテンスとは,社会的に是認された方法を用いて効果的な相互交渉を行なう能力である。本研究では,行動観察,教師評定,ソシオメトリック・テストを用いて,仲間関係における幼児の社会的コンピテンスの多面的評価を試みた。まず研究1において,4つの下位尺度(協調性,仲間関係への参加,主導性,対大人関係)から成る教師評定用の社会的コンピテンス尺度が作成された。研究2では,社会的コンピテンスの諸測度間の相互関連性とその個人差について検討した。その結果,女児では能動的な,男児では協調的な他児への働きかけが,仲間からの人気の評価と関連を持っていた。また肯定的な感情の共有をともなう相互作用は,教師による参加傾向の評価と関連を持っていた。男児ではこれに加えて,参加行動の成功率が教師による主導性の評価と関連を持ち,攻撃行動も一種の解決行動として評価されている可能性が考えられるが,女児ではそのような関連性は見られなかった。このような性差はクラスター分析によって見いだされた個人差のパターンにも反映されている。しかしクラスター分析では,相互関連性のパターンとは異なる自己抑制型のコンピテンスのパターンも見出され,非コンピテンスの内容にも個人差の存在が認められた。以上の結果は社会的コンピテンスに関する質的分析の必要性を示している。

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4巻2号


視覚刺激を媒介とした幼児の和音の好み

(福崎淳子:日本女子大学家政学部)

本実験の目的は,幼児を対象に和音の「好き−嫌い」を調べる上で,言語のみの手法と比較し,手がかりとして視覚刺激を用いることが有効であるか検討することである。35名の幼児を対象に,実験第1部では,視覚刺激における好みの尺度としての有効性を調べるために,赤・青・黄・橙・緑・紫・茶・白に着色されている8枚の正方形の色ボードと同じ色で着色されている8個のたまご模型の好みについて検討した。続く実験第2部では,視覚刺激として8個のたまご模型を用い,聴覚刺激としてピアノ音による5つの協和音(完全協和音:完全四度(C4F4),完全五度(C4G4),完全八度(C4C5),不完全協和音:長三度(C4E4),長六度(C4A4))と3つの不協和音(短二度(B3C4),長二度(C4D4),長七度(C4B4))の8和音を用い,和音の「好き−嫌い」をことばで答えさせることと,和音と一致すると思うたまご模型の選択をさせた。実験第1部では,たまご模型は,正方形の色ボードに比べるとより色の好みの差が認められ,和音の好みの尺度として色ボードよりも有効性の高い視覚刺激であることが確認された。実験第2部では,言語のみによる反応からは和音の好みの違いを引き出すことは幼児の場合難しく,特に不協和音について幼児がどのような好みを感じとっているのかを判断することが難しいと思われた。
これに対し,視覚刺激を手がかりにすると,好きだと思うたまご模型と完全協和音(C4F4,C4G4,C4C5)・不完全協和音(C4E4,C4A4)が対応し,好まないと思うたまご模型と不協和音(B3C4,C4D4,C4B4)が対応する傾向が認められた。以上の結果より,幼児を対象にした和音の好みの実験を行う時に,視覚刺激を手がかりとすることは言語のみに比べより有効と考えられる。

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乳幼児におけるアタッチメント研究の動向とQ分類法によるアタッチメントの測定

(近藤清美:大阪大学人間科学部)

本論文は、乳幼児期におけるアタッチメント研究とその測定法に関する現在の動向を明らかにしたものである。ストレンジ・シチュエーション法は,過去20年間使われてきたが,現在では,いくつかの点で問題があることが分かってきた。すなわち,Bタイプが最も適応的であるという前提や,アタッチメント・パターンに差をもたらす原因や,アタッチメント・パターンの後の発達への関わりについて,従来,考えられてきた知見を覆す研究結果が出されたり,また,アタッチメントを内的ワーキング・モデルとしてとらえる生涯発達的な観点に立つ新しいアタッチメントの概念が注目されている。さらに,わが国では,ストレンジ・シチュエーション法はアタッチメントの測定法としては妥当でないことが,様々な研究者によって証明されている。アタッチメントの測定法として新たに開発されたアタッチメントに関するQ分類法は,現在のアタッチメント研究の動向に一致するものであり,かつ,わが国の乳幼児のアタッチメントを測定する際にもいくつかの利点を持つ。本論文では,Q分類法によるアタッチメントの測定法が紹介され,今後のアタッチメント研究に対する有効性が論議された。

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算数文章題の解決過程における誤りの研究

(坂本美紀:京都大学大学院教育学研究科)

本研究は,算数の文章題解決における誤りの原因を調査したものである。研究の目的は,1つの文章題の解決過程を下位過程に分け.誤りが各過程のどの部分で生じるか,またそれに問題の種類による違いがあるか,という点を検討することである。課題は,加減乗除のうち2種類を扱う文章題で,過剰情報および単位変換の要因が操作された。調査対象は小学校4年生であった。実験1では,問題は5つの下位過程に分けられ,各過程ともパーソナルコンピュータによって,教示・問題文・選択肢の提示および児童の反応の記録が行われた。
その結果,単位変換を含む問題では,単位変換がつまずきの原因になることが多いことがわかった。また,単位変換を含まない問題でのつまずきの原因は,問題の状況を理解する過程にあると考えられた。実験2では紙筆検査によって,過剰情報が,問題状況を理解する過程での,解決に必要な数値の選択に与える影響を中心に調べた。実験の結果,通常問題では演算を選択する下位過程で正答数が減ったが,過剰問題では問題文中の過剰な情報が数値を選択する下位過程を困難にし,誤答の原因となっていた。これより,文章題特有の難しさの原因の多くは問題理解過程にあり,特に問題文から抽出した必要な数字の関係づけが,つまずきの要因になっていることがわかった。

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13カ月の遊び・言語に及ぼす5カ月の母親の反応の影響

(戸田須恵子・東 洋:白百合女子大学・Bornstein,Marc H.:米合衆国立衛生研究所)

遊び及び言語に及ぼす母親の反応行動の影響を研究するために,乳児が生後5カ月と13カ月に達した時,母子24組を家庭訪間して観察した。5カ月では日常生活場面を観察し,13カ月では母子の遊び場面を観察した。13カ月では又,母親との面接によって乳児の言語理解及び発語の資料を得た。5カ月では,乳児の注視と発声及び乳児の行動に対する母親の反応を分析し,13カ月時では,乳児の遊びと言語理解及び発語を分析した。結果は,5カ月時における乳児がおもちゃを見た時のおもちゃについての反応や養育的反応と,13カ月の象徴的な遊びとの間に有意な相関が認められた。又,模倣反応と言語理解との間に有意な相関が認められ,ネガティブな声に対する母親の養育的反応と,発話との間にも有意な関係が認められた。さらに,遊びと発語との間にも有意な関係が認められた。重回帰分析を行った結果,母親の模倣や養育的反応が,乳児の遊び及び言語理解・発語の発達における重要な要素であることを示唆した。

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テレビアニメにおけるカット技法の実態

(山本博樹:文教大学人間科学部)

本研究はテレビアニメにおけるカット技法の実態を調査したものである。調査Iでは,アニメにおけるカット技法の出現頻度を他の番組ジャンルと比較しながら検討した。調査Uでは,アニメのテーマの種類と視聴率,ならびにカット技法の出現頻度との関連について検討した。調査皿では,アニメのカット技法を時間的なつながりの点からカテゴリー分けした。それらの主な結果は以下の通りであった。1)カット技法の出現頻度は番組ジャンルにより異なるが,アニメにおけるカット技法の出現頻度は1分間に約14回と多かった。2)アニメのテーマの種類と視聴率の違いがカット技法の出現頻度と関連していた。テーマが「ヒーロー・SFもの」で視聴率の高いアニメで出現頻度が特に高かった。3)アニメでは前後のショットの時間を同時的につなぐカット技法が特に多かった。4)視聴率の高い「ヒーロー・SFもの」のアニメに数多く含まれるカット技法が男児のテレビ視聴を導いた。以上から,アニメにおけるカット技法の実態が明らかになり,幼児期の物語経験において,カット技法が重要な要因となっていることが示された。

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乳児院・養護施設の養育環境改善に伴う発達指標の推移−ホスピタリズム解消をめざした実践研究−

(金子龍太郎:北陸学院短期大学保育科)

児童福祉施設の移転に伴う養育体制の改善により,入所児の発達が移転前と移転後でどう変化したかを検討した。
移転に伴う養育改善の要点は家庭的で小グループの落ち着いた雰囲気の中で,養育担当者との深い継続的な愛着関係を確立して,乳児期初期からの養育者と乳児との非言語的コミュニケーションを保証することにより,全面的な発達を向上させることにあった。その結果,移転前に入所した児と移転後の入所児における発達指標は次のように変化した。まず,初語発現は約1か月半早く,移転後では平均10か月5日となり,2語文発現は約3か月早まり,平均1歳7か月になった。また,人見知りは移転後では約1か月早くなり,平均6か月19日となった。そして,事例で示されているように,今日では子どもと担当者との絆が深まっており,深い人間関係が形成されていた。施設という集団養育の場で,交替制勤務や複数養育者体制から生じる問題が多く残されているものの,諸発達は明らかに良くなっていた。以上の結果から,施設の養育環境を改善すれば,平均的家庭児に劣らない発達を示すことが,本実践研究によって明確に示された。

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同一性地位達成過程における『事象の記憶』の働き

(植之原薫:お茶の水女子大学生活科学部)

本研究の目的は,青年期の同一性地位各群が示す『事象の記憶』を検討することにより,同一性地位達成過程における『事象の記憶』の働きを検証することである。研究1(質問紙調査)では,118名の大学生を対象に,@同一性地位を測定し,A現在の自己に関することと人生におけるいくつかの重要な決定項目について,Bそれらの決定項目の具体的なきっかけと考えられる過去の事象についての記憶(『事象の記憶』)を調査した。この結果,達成群の『事象の記憶』の明瞭さは非達成群より有意に低かった。研究2(面接法)では,44名の大学生に,@同一性地位面接と,A同一性地位面接で用いた質問項目の具体的なきっかけと考えられる記憶についての面接を行った。この結果,『事象の記憶』と現在の命題との関連は,達成群の方が非達成群より有意に高かった。
研究1と研究2の結果より,達成群が示す『事象の記憶』は,経験に忠実な記憶というより,再構成され,命題との関連が高いものだった。全体的討論で検討したところ,同一性達成過程では,関連する『事象の記憶』が繰り返し参照され,現在の命題との関連を深めていくのではないかと考えられる。

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現代の大学生における「内省および友人関係のあり方」と「対人恐怖的心性」との関係

(岡田努:新潟大学教育学部)

従来青年期の特質として記述されてきたものとは異なり,現代青年は,内省の乏しさ,友人関係の深まりの回避といった特徴を示していると考えられる。こうした特徴は,新しい対人恐怖症の型として注目される「ふれ合い恐怖」
の特徴とも共通すると考えられる。本研究は,「ふれ合い恐怖」の一般健常青年における現れ方(ふれ合い恐怖的心性)を,内省,友人関係の持ち方,自己評価間の関連から考察した。内省尺度・友人関係の深さに関する尺度を変量としたケースのクラスタ分析の結果,3つの大きなクラスタが得られた。第1クラスタは内省に乏しく友人との関係を拒否する傾向が高く,「ふれ合い恐怖的心性」を持つ群と考えられる。第2クラスタは内省,対人恐怖傾向が高く自己評価が低い,従来の青年期について記述されてきたものと合致する群であると考えられる。第3クラスタは自分自身について深く考えず友人関係に対しても操的な態度を示し,第1クラスタとは別に,現代青年の特徴を示す群と考えられる。この群は自己評価が高く,対人恐怖傾向については,対人関係尺度の「他者との関係における自己意識」下位尺度得点以外は低かった。これらのことから,現代の青年の特徴として,自分自身への関心からも対人関係からも退却してしまう「ふれ合い恐怖的心性」を示す青年と,表面的な楽しさを求めながらも他者からの視線に気を遣っている群が現れている一方,従来の青年像と合致する青年も一定の割合存在することが見いだされた。

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手続きに関する知識の柔軟性をもたらす要因

(外山紀子:日本学術振興会・鈴木高士:白百合女子大学)

本研究では,食事スクリプトを例として,手続きに関する知識であるスクリプトが,手続きの意味について説明する知識の発達,および手続きに関する知識自体の表現の変化につれて,柔軟に使われるようになることを扱った。
小学校2年生・4年生・6年生,そして大学生を対象として,第1実験では,生理的・社会的目的を達成するためのプランをたててもらった。その結果,発達につれ,より多くの要素が目的達成との関連において実現されるものとして想定されるようになること,そして,より多様な方向で目的を達成できるようになることが示された。第2実験では,第1実験で示されたスクリプトの柔軟化が,説明を与える知識の発達によっているのかをみるために,すでにできあがったプランを示し,「なぜ,それが目的を達成するのか」を説明させた。その結果,発達につれ,より妥当な説明が可能になることが示された。さらに,手続きに関する知識自体の表現の変化の果たす役割を検討するために行った,研究3での結果は,研究1と研究2での結果のズレを説明するものであった。

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