日本発達心理学会 第33回大会
日本発達心理学会 第33回大会

ご挨拶

 日本発達心理学会第33回大会の開催にあたり、ご挨拶を申し上げます。本大会は東京学芸大学が開催校として運営に携わらせていただきます。コロナ禍終息の見通しが不透明であり、参加者の感染リスクを回避するために慎重を期し、本大会も前大会と同様にWeb開催とすることとなりました。前大会ではWeb形式による新たな大会の開催の可能性が模索され、オンデマンドでのコンテンツ配信にとどまらず、インタラクティブなオンライン大会のスタイルが開拓されました。そのような点で、Web開催は大会開催の新たな形態を切り拓くという生産的な側面もあったように思います。本大会でも前大会の経験やノウハウを引継ぎ、Web開催のメリットや可能性をさらに発展させられたらと考えております。
 コロナ禍は、人を対象とした研究の実施を難しくしました。多くの先生方がご苦労されていることと思います。しかし、そのような状況において、研究のレジリエンスとでもいうべきものが試されているのかもしれません。コロナ禍は新しい生活、教育、労働の様式をもたらしましたが、研究も同様ではないでしょうか。困難な状況下で、人を対象とする研究をいかに弾力的に行うか。そのような取り組みの中から生まれる新しい発想もきっとあるはずです。
 さて、本大会の開催校である東京学芸大学は教員養成を主なミッションとしています。大学院は教職大学院と修士課程からなり、特別支援教育や幼児教育は教職大学院に、学校心理や臨床心理学は修士課程に位置づいています。教職大学院のスローガンは理論と実践の往還です。それは心理学研究において古くて新しいテーマでもあります。また、本学は附属学校も多数抱えています。学校は子どもたちが多くの時間を過ごし文化が継承される現場であり、発達と教育の問題はその場を離れて論じることはできないでしょう。本大会では本学や附属学校などで発達心理学やその関連領域の研究や教育実践に携わる多くの教員が開催に関わっています。心理学の基礎研究や特別支援教育などに領域横断的に関わる教員が多いことも本学の特徴です。
 多様性(ダイバーシティ)というキーワードは、近年、頻繁に取り上げられるようになりました。しかし、まだ理念が先行しており、心理学的な研究はこれからの課題と言えます。「学びのユニバーサルデザイン」や「2E教育」などの教育の新たな潮流との関係で多様性の問題を検討することも求められています。本大会では、多様性という新たな視野のもとで、発達、教育、学校などの問題や、それらの関係について検討することをテーマとして掲げることとしました。理論と発達支援や教育の現場での実践との往還の在り方について考える機会とするためのシンポジウムとセミナーを多数用意しています。基調講演は名誉大会委員長で、ロシアの心理学に造詣の深い國分充学長による「文化-歴史学派ヴィゴツキーの文化-歴史性-発達のグランド・セオリーの鑑賞学-」です。ヴィゴツキーは典型的でない発達をする子どもたちの教育の問題にも深く関わっていました。ヴィゴツキーの心理学のインパクトについて、発達の多様性という新たな視点のもとにあらためて考える機会になれば幸いです。Web大会ならではの新たなコミュニケーションの可能性も探りつつ準備してまいります。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

2021年8月
日本発達心理学会第33回大会委員長
藤野 博(東京学芸大学教授)